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「パブー」とソーシャルリーディング

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ブログを書くような感覚で、手軽に電子書籍を作成できる上に、公開・販売までできてしまうというサイト「パブー」が登場しています:

ブクログのパブー

早速アカウント登録して試してみましたが(公開した「本」はこちら)、Word的なテキスト編集ツールが用意されていて、ある程度自由なレイアウトでサクサクと文章を書くことができます。しかもPDF/ePub形式でのダウンロードにも対応し、KindleやiPadでも閲覧可能ということで、パブーのサイトを超えた範囲まで読者を獲得できるという期待が。最近話題の電子書籍・電子出版ですが、こうした素人の参入を可能にするサービスが登場してくることで、より一層盛り上がっていくはずですよね。

ただ、個人的にあれっと思ったことが一つ。それはソーシャル性があまり感じられないという点です。「この作品をツイッターで紹介する」、あるいは「このページをツイートする」的な機能は備えていると思ったのですが、僕が見た限りではその種の機能はなし。個々の作品にコメントを付けたり、お気に入り登録したりといったことはできるのですが、コミュニケーションはサイト内で閉じられてしまっているようです。

例えばKindleの最新版には、「ポピュラーハイライト」という機能が追加されています。その名の通りハイライトに関する機能なのですが、他人が引いたハイライトを共有できるというもので、ハイライトを引いた部分をツイッターに投稿することも可能。つまり「読書」というある意味では孤独な体験を、一気にソーシャルなものにしてしまう機能なわけですね。まさに電子書籍でしかなし得ない仕掛けであり、電子書籍を「紙の延長線上にあるもの」から「まったく新しい体験をもたらすもの」に変化させる可能性を秘めているのではないでしょうか。

また、読書体験をソーシャル化するということには別の意味もあります。電子化の時代が到来して、誰もが簡単に電子書籍を出版できるようになれば、読者がその中から自分にあった作品を選ぶことは当然難しくなります。そんな時、誰がかつての編集者や出版社、書店の店員が果たしていた「フィルタリング」の役割を果たしてくれるのかというと、「電子書籍ナビゲーター」のような人々がそれを独占する可能性は低いでしょう(もちろんそのような役割を果たす組織や人物が現れると思いますが、彼らの数も有限であり、あらゆる場面で登場することにはならないはずです)。やはり現在の「ソーシャルフィルタリング」のような仕組みが機能して、クチコミ経由で見ず知らずの人が出版した電子書籍を読むことになるというケースが増えるのではないでしょうか。それはちょうど、Ustream上で盛り上がっている番組をツイッターで知り、自分もアクセスしてみる、という現在増えつつあるパターンと同じイメージです。

となると、これから電子書籍プラットフォームに求められる力の一つは、出来る限りソーシャルグラフの中に入り込める力になるのではないでしょうか。いまツイッター上で自分がフォローしている人々が注目している電子書籍を、自分でも読んでみる。あるいはハイライトが引かれた部分の違いから、ある本を別の角度で読めるようになる。そんな「ソーシャルリーディング」を実現する可能性を、せっかくの新しい電子書籍プラットフォームには見せて欲しいなどと感じた次第です。

【○年前の今日の記事】

Twitter にいよいよ収益が――でもちょっと不安も (2009年6月23日)
指紋認証付き鞄、という発想 (2008年6月23日)

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