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【書評】『小さなチーム、大きな仕事』

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相変わらず本業が忙しく(ありがたいことです)、なかなか頂いた本の書評が書けないでいるのですが、ご献本いただいたものについては全て目を通しております。この場を借りて御礼申し上げます。で、今回は久々に書評を。ハヤカワ新書から出版され、僕の身の回りではかなり評判の良い一冊『小さなチーム、大きな仕事―37シグナルズ成功の法則』です。

小さなチーム、大きな仕事―37シグナルズ成功の法則 (ハヤカワ新書juice) 小さなチーム、大きな仕事―37シグナルズ成功の法則 (ハヤカワ新書juice)
黒沢 健二

早川書房 2010-02-25
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本書の著者はジェイソン・フリードとデイヴィッド・ハイネマイヤー・ハンソン。この名前にピンとこなくても、"37signals"の経営陣と言えば興味を引かれる方も多いでしょう。まさに「シンプル・イズ・ベスト」という言葉を具現化したようなアプリケーションを世に送り出し、世界から賞賛を浴びている37signals社。その中心となる哲学のエッセンスをまとめたのが本書です。なにしろ、

多くのものは小さくすればするほどよくなる。映画監督は、すばらしい映画を作るためによいシーンを切る。ミュージシャンは、すばらしいアルバムを作るためによい曲を取り除く。作家は、すばらしい本を作るためによい文章を削除する。僕たちもこの本を作る際に、第二稿から最終稿の間に半分のボリュームにした。実際によりよいものになっていると信じてほしい。

と語られている程ですから、密度の濃さは折り紙付きです(いっそカットされた部分まで読んでみたい気がするのですが……)。新書サイズとはいえ、得られるものは非常に多いでしょう。そして新書サイズのボリュームだからこそ、一度読んで本棚に収めてしまうのではなく、何度も繰り返し読んで実践することのできる本になっているのではないでしょうか。

また本書は、単にライフハックや仕事術を語るものではありません。前述の通り、この本に収められているのは37signalsの「哲学」。ある意味で万人受けしないようなアドバイスまでも、自信を持って語られています。例えば個人的に一番好きだったのが、次の部分です:

ビジネスの世界には、スーツに身を包み、完璧に見せようとしている「プロフェッショナル」がたくさんいる。だが実際には彼らはお堅く退屈な存在に見えるだけである。誰もそんな人間には親しみを感じない。

欠点を見せることを恐れてはいけない。不完全さはリアルであり、人はリアルなものに反応するのだ。だから、僕たちはいつまでも変わらないプラスチックの花より、しおれてしまう本物の花が好きなのだ。どのように思われるか、どのように振舞うべきか、あれこれ心配する必要はない。すべてありのままの本当の自分を世界に見せればいい。

不完全の美しさ。日本の「ワビサビ」のエッセンスでもある。ワビサビの価値は、見た目の美しさを超えた特徴と個性にある。物事の中にあるひびや傷も否定されるものではないと考える。それはまたシンプルさでもある。いろいろな物を取り除き、自分自身の持ち味を使うのだ。

いかがでしょうか。恐らく賛否両論あるでしょうし、仕事では完璧を目指さなければならないというのもまた別の哲学です。「37signalsのようなベンチャーには通用しても、日本の大企業では状況が違うよ」というのも事実でしょう。しかし重要なのは、単に美辞麗句が並べられているのではなく、37signalsという会社が信じている方向性が示されているということ。ライフハック的な部分をかいつまんで実践する、というのも本書の1つの活用法だと思いますが、ぜひ全体を読んで彼らの精神を感じて欲しいと思います。それさえ理解できれば、本書に書かれていないアドバイスも自然と胸に浮かんでくるのではないでしょうか。

ちなみに原著"Rework"のサイトはこちら。映像等も用意されていますので、興味のある方は覗いてみて下さい:

REWORK: The new business book from 37signals

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