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「何が起きるか分からない、不確実な時代だからこそ……」

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何が起きるか分からない、不確実な時代。こんな時代だからこそ、変化に負けないロバストな戦略が必要です。弊社はお客様のパートナーとして、「百年に一度」の時代を勝ち抜くお手伝いを致します。さあ、まだ見たことのない明日へ!

弊社のキャッチフレーズ、ではありません。ましてやどこか別の企業の宣伝文句をコピーしてきたものではありませんが、こんなフレーズ、どこかで聞いたことがあるのではないでしょうか。「不確実」「不確か」「変化」「激動」そしてお馴染み「百年に一度」などなど……右を向いても左を向いても、「何が起きるか分からない」ことを訴えるメッセージであふれていますよね。かく言う自分もこうしたフレーズを枕詞のように使ってしまうのですが、実際のところどこまで「不確実な時代」なのでしょうか?

先日『リスクにあなたは騙される―「恐怖」を操る論理』という本をご紹介しましたが、その最後の章でこんな実験が紹介されています:

1970年代初頭の一連の重要な研究において、バルク・フィッシュホフは、イスラエルの大学生に、英国とネパールのグルカ族との1814年の戦争のきっかけとなった出来事を詳細に説明した。その説明には、戦争の結果に影響を与える軍事的要素も含まれていた。たとえば、グルカ族の兵士の数が少ないことや英国人が不慣れな起伏の多い地形などである。説明から省かれていたのが戦争の結果だった。

で、学生達をいくつかのグループに分け、戦争の結果として「英国の勝利」「グルカ族の勝利」「和平合意のない膠着状態」「和平合意のある膠着状態」の4つの可能性それぞれが起きうる確率を考えてもらいました(ちなみに実際には英国の勝利で終わったそうです)。すると、戦争の結末を知らずに考えてもらった場合には「英国の勝利」で終わる可能性が平均33.8%と評価されたのに対し、結末を教えた上で考えてもらった場合はこの数字が57.2%に跳ね上がったとのこと。同様の実験でも、この「起きたことは起きる可能性が高かったように感じられる」という心理の存在が確認されており、「後知恵バイアス」と呼ばれているそうです。

後知恵バイアスの結果、不確かさは歴史から取り除かれる。過去に起きたことを実際に知っているだけでなく、起きやすかったと感じる。さらに重要なのは、予測可能だったと考えることだ。要するに、最初から知っていたと考える。

そういうわけで、私たちは現在、恐ろしいほど不確かな未来に目を凝らし、起きる可能性のあるありとあらゆる恐ろしいことを想像している。そして、過去を振り返ると?過去は未来よりずっと安定していて、ずっと予測可能に思える。過去は今とはまったく違ったものに見える。ああ、やはりそうだ。今はとても怖い時代だ。

こういったことは、まったくの錯覚である。

「後知恵バイアス」は、ビジネス書やビジネス雑誌の世界でも存在していますよね。「○○(お好きな会社名、製品/サービス名をお入れ下さい)大成功の秘密を探る!」とかいう本/雑誌記事を目にしない日はありませんが、その多くは「後から」ある戦略を見直して、それが正しかったと評価しているに過ぎません。いくら確実に見える戦略でも、それが実行された当時は成功するかどうかは闇の中であり、実際に失敗する確率もあったはずです。逆に愚行と称されるような事例であっても、単にいまから見れば間違った道がハッキリと見えるだけの話でしょう(もちろん本当の意味での愚行も多々あると思いますが)。

あの頃は良かった。そうやって昔を懐かしむのは楽しいことですが、実際には不安や心配を(いまと同じように)抱えていたはず。あまり過去を美化してしまうと、ますます現在が「不確実で、不安な時代」なように感じられてしまい、不要なシステムやコンサルティングサービスに過剰投資してしまうはずです。もちろん将来に備えるのは大切なことですが、悲観ばかりして守りの姿勢に入るのではなく、リスクを受け入れて積極的な姿勢に転じることも必要なのではないでしょうか。

【○年前の今日の記事】

あえて言う「新聞に未来はある」 (2008年5月27日)
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