あえて言う「新聞に未来はある」
いつも既存メディアを批判してばかりなので、今日はあえて、「まだ未来はある」という立場に立ってみたいと思います。議論の出発点はこちらの記事:
■ あえて言う「新聞に未来はない」 (Business Media 誠)
長い記事ですが、ポイントは2つだと思います。
- 収入が減っている
(購読者が減り、広告収入も減っている/広告だけに依拠するモデルは難しい) - コストがかかっている
(記者というリソースを抱えなければならない/記者は新聞の競争力の源泉なので、カットすることは不可能)
「収入-コスト=利益」ですから、収入が減ってコストが現状のままなら当然利益は減ります。利益が減れば企業は立ち行かなくなる、という議論ですね。しかし、本当に新聞に残された道は無いのでしょうか。
※ちなみにこでは議論を単純化するため、「新聞」と言った場合、「新聞社+販売店」を指すものとします。また同じ理由で、「押し紙」問題や記者クラブの弊害といったポイントには立ち入らないこととします。
*****
利益が減った場合の常套手段、コストカットを考えてみましょう。「誠」の記事では、記者というコストは削減できない(競争力の源泉だから)という前提に立っているようですが、特定の分野に特化するという戦略はどうでしょうか。例えばその是非は別にして、「国際ニュースなんか興味はない」「テレビは見ないからテレビ欄・芸能欄はいらない」という人も多いでしょう。であれば、いちばん「売れる」分野を書ける記者を残して、あとは解雇してしまっても良いはずです(そもそもITの分野に限って言えば、5,750人の社員を有する朝日新聞よりも、166人だけの ITmedia の方が勝っているように思います)。
どの分野の記者も減らせないとしたら、編集にかかるコストを削減するというのはどうでしょうか?紙媒体は止めてしまい、すべてウェブ上での情報配信に徹する。記者達が書いた記事は、(ある程度推敲した上で)全て公開。読者には検索機能などを使って欲しい情報を取得してもらい、それをどう理解するか・何を感じ取るかは読者にお任せしてしまう……要は「一次情報提供マシーン」に徹するわけですね(あり得ないと思われるかもしれませんが、ロイターやニューヨークタイムズなど、所有するコンテンツを自由に操れるAPIの公開に踏み切るメディアが現れ始めています/また一切編集をしないことで生まれる価値があることを、『徹子の部屋』が教えてくれます)。さらにウェブ上での公開であれば、紙にかかるコストや、印刷・配達に関するコストも削減できます。
コストを減らしたら、今度は収入の話です。仮に「専門分野に特化する」という方向を選択した場合、必要な収入は確保できるでしょうか?「いらない情報も押しつけられて月額3,000円は嫌だけど、必要な情報だけで月額1,000円ならいいかも」という人はいそうですから、不可能ではないかもしれません。また読者が限定されれば、それだけ広告主にとっては効果が見えやすい媒体になりますから、広告主の数は減っても残った企業との関係が強固になる可能性があります。
またウェブ上だけで情報提供するようにすれば、小さくなったコストを広告モデルだけでまかなう、という道も現実味を帯びてくるでしょう(ニコニコ動画のように、アフィリエイトと組み合わせて物販に活路を見出す、という可能性もあるかも)。一方でウェブの本格活用に踏み切れば、容易に「携帯電話での情報配信」という道が開けます。「紙」という出力先に価値を見出さない人でも、「携帯電話」に出力してくれるのであれば(要は携帯電話から全ての新聞記事が検索・閲覧できるのであれば)対価を払っても良い、と言ってくれるかもしれません。
*****
ここまででお分かりかもしれませんが、要は「収入が得られるか」「コストが削減できるか」というのは表面的な問題でしかありません。「消費者(あるいはお金を払ってくれる存在)はどんな価値を求めているか」「それを生むプロセスの中で、自社がどの位置を占めるのか」というのが、掘り下げるべきポイントでしょう(バリューチェーン、という素敵なMBA用語を持ち出しても良いかもしれません)。そしてその意味では、まだまだ新聞には次の理想像を描く余地はあるのではないかと思います。ただし理想像が描けたとしても、それを実現するという「実行」の面が次の問題となるわけですが……仮に国際部がいらない、という話になっても、記者達に「明日から来なくていいよ」というのは日本では考えづらいですしね。
今後新聞業界で再編があるのか、ビジネスモデルの変更があるのか、それともただ、ジワジワと衰退していくだけなのか。いずれにせよ、どの道も大手新聞社にとって一定の“痛み”を伴うことだけは、間違いがない。
痛みがあるのは事実だと思いますが、イコール新聞は生き残れないか、というとそうではないと思います。事実海外の新聞業界では、無料紙を発行するものやウェブに活路を見出すものなど、様々な試行錯誤が継続中です。「現状から目をそらさずに、新しい道を進む勇気と行動力があれば」、まだ新聞にもチャンスが残されているのではないでしょうか。
< 追記 >
■ 町の新聞屋さん復活 (Polar Bear Blog)