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「カオが見える情報」の効果

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昨日のテレビ東京「ワールド・ビジネス・サテライト」で、化粧品販売にクチコミを活用した事例が紹介されていました。あるお店でPOPに店員の顔写真を掲載し、商品を宣伝する一言コメントを掲載したところ、売上が4倍になる商品まで現れたのだとか(うろ覚えなので、間違っていたらごめんなさい)。お店の方も効果に驚いている様子でした。

最近、同じような事例をあちこちで目にします。ネットでもクチコミ活用が進んでいることなどは、ITmedia の読者の方々には釈迦に説法にでしょう。どうやらクチコミに効果があることは確実のようですが、その効果はいったいどこから生まれるのでしょうか。

先日『姫様商売』という本を読んだのですが、そこでは若い女性の間にクチコミが広がる条件として、「誰が言った情報か」が重要であると説かれています。特に本書が「ヒメ」と称する女性たち(グループのリーダー格として行動し、センスの良さや情報通ぶりを認められているトレンドセッター)は周囲の人々に大きな影響力を持ち、彼女たちが発信するからこそ、クチコミが効果を持つのだと論じられています。

確かに「誰が言ったか」という要素は重要です。僕は女性ではありませんが、身近にお手本になる存在がいて、その人が「これがいい!」と言うからこそ薦められたモノを買うのだというロジックは納得できます。しかしそれだけでは、POPにクチコミを活用する事例のような「身近ではない人の言葉でも効果がある」というケースを説明することができません。もしかしたら、クチコミである、つまり誰かが個人として伝える情報であるというだけで、一定の効果が既に存在しているのではないでしょうか。

例えば「アサヒの新しいビールはおいしい」と書かれているのと、「僕(小林啓倫)はアサヒの新しいビールがおいしいと思う」と書かれているのでは、どちらが説得力があるでしょうか?(どっちも信頼できない、という方は、どちらかと言うと・・・で結構です。)誰の発言か分からない、言うなれば「無責任な」情報である前者よりも、僕と言う人間の発言であると明示している後者の方が、説得力があると感じる方が多いでしょう。つまり見ず知らずの人であっても、情報発信を発信している人の「カオ」が見えるだけで、情報に対する信頼感が増しているわけです(ただし「どうせアサヒビールに言わされているんだろ」のように、カオの後ろに別のカオが見えてしまうと逆効果ですが)。

「誰が言ったか」だけが重要であれば、ビールの専門家でもなんでもない僕が「アサヒビールはおいしい」と発言しても説得力は感じられないはずです。しかし匿名性を排除するだけで一定の信頼感が得られるということは、非匿名性という点が何らかの効果をもたらしているということになります。恐らく人々は、非匿名性から「ウソをついていない」「発信者が本当に信じた情報である」という要素を連想するのではないでしょうか(その連想が担保されたものではないにも関わらず)。また「これ面白いよ」と言われて借りた本を批判しづらいように、「誰が言ったか」が明確になっている意見は否定しづらく、「言われてみると面白いかも」と信じ込んでしまうという効果があるのかもしれません。いずれにしても、非匿名性という要素が確保されるだけで、情報発信に一定の効果を与えることができるのだと思います。

企業がブログで情報発信するという「ビジネスブログ」は、もはや一般的な活動になりつつあります。しかしまだ「誰が書いているか」を明確にして行われているビジネスブログは少数派なのではないでしょうか。もちろん単に署名記事にすれば良いというものではありませんが、書き手の顔が見える形で情報発信を行うことによって、ぐっと信頼感は大きくなるでしょう。また書き手にも緊張感が求められるようになり、記事のクオリティにも良い影響があるはずです。ブログ以外にも様々な場面で、情報発信に「カオが見える」ようにすることを検討してみても良いのではないかと思います。

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