クラウドの価値~マシンがあってもクラウドを使えばいいじゃない~
先日、AWS(Amazon Web Services)に転職した人と話をしていた。
私が言うとポジショントークになるけど、もうもうなったら自分でサーバーを持つ意味は本当にあるのかって思いますよね。
まったくその通りだと思う。
2007年11月8日には、マイクロソフト前CEOのスティーブ・バルマー氏がこう言っている。
挑発的な意見になるかもしれないが,10年後に,自社で独自に管理するサーバーで,データを保持したり,トランザクションを実行したりする企業は無くなるだろう。ほとんどのトランザクションやアプリケーション,システム管理機能が,インターネット上のコンピュータ・クラウドからもたらされるはずだ。
ちなみに、Microsoft Azureの前身であるWindows Azureの発表が2008年10月、当時のマイクロソフトのクラウドサービスは「Windows Live」ブランドのSaaSがあっただけである。これでサーバーを置き換えるのは無謀であり、「社内サーバーがなくなる」発言を無視したパートナー企業も多かった。
あれから8年近く経った。あと2年で社内のサーバーがなくなるとは思えないが、縮小傾向にはある。特に新規サービスの場合はクラウドを第一に考える人が増えている。
今回は、クラウドの利点について単純なコストだけで考えてみたいと思う。実際には他にも多くのメリットがあるので、機会があれば続編を書きたい。
クラウドは安いのか?
クラウドは「使いたいときに、使いたいだけ使って、使った分だけ支払う」モデルである。初期コストが安いので、不確定要素が大きいサービスであってもリスクが小さい。
ただ、単純な使い方をした場合、運用コストは必ずしも小さいとは言えない。最安値のレンタルサーバーは月額数百円で契約できるし、数千円も出せばかなり立派なサーバーが利用できる。しかし、クラウドサービス(IaaS)を使うと1万円を超えることが多い。
IBM SoftLayerやVMware vCloud Airは、クラウドサービスではあるが物理マシンを固定的に割り当てることができる。しかし、4コア、2GBメモリの構成で月額100ドルを超えており、単純な価格比較ではレンタルサーバーの方が安いかもしれない。少なくともIaaSに限れば、同じサイズのサーバーを同じ台数だけ年中無休で使い続けるのは決して安くはない。
自社でサーバーを持つのはコストがかかるが、安定した性能を定常的に使うのであればクラウドではなくレンタルサーバーも1つの選択肢である。
クラウドのメリットは何か?
では、どのようなときにクラウドのメリットが発揮されるのか。管理コストの削減やサーバー調達の迅速性など、多くのメリットはあるが、最も分かりやすいのは負荷の増減に合わせてサーバー台数を調整することだろう。
アサヒビールは、動画プラットフォーム「ASAHI MOVIE CHANNEL」をマイクロソフトのクラウドサービス「Microsoft Azure」上に実装した(事例紹介「アサヒビール株式会社」)。アサヒグループ傘下のアサヒ飲料なども同じプラットフォームを利用している(サイトが分かれているのは、アルコール飲料と清涼飲料を分離するためだと想像している)。
「ASAHI MOVIE CHANNEL」では、CMの動画映像などが公開されている。動画公開はYouTubeなどの公開プラットフォームを使うこともできるが、タレントの肖像権のコントロールや、アクセス解析を考えて独自プラットフォームにしたのだろうか。記者会見やイベント用、CMのメイキング映像などにはYouTubeのアカウントも作成されており、使い分けられているようだ。
前述の事例紹介では、アサヒ飲料の「ワンダ モーニングショット」にAKB48を起用し、90種類ものCMを作った結果、アクセスが集中したが、大きなトラブルは皆無だったという(事例には「AKB48」の言葉は出てこない)。
最近の個人的なイベントは、アイドルユニットまなみのりさがアサヒ飲料「ドデカミンナイトフィーバー」のCMが掲載されたことである。このCMは、テレビ朝日の番組「アイドルお宝くじ」の企画として作成されたせいか、5月に放映されたものの「ASAHI MOVIE CHANNEL」には掲載されていなかった。それが、6月15日になって掲載されていることにファンが気付き、Twitterではちょっとした騒ぎになっていた。
テレビCMの場合は、事前にスケジュールが分かるため、それにあわせてサーバーの増加を行う。しかし、このように突然発生したアクセス負荷に対応するのは難しい。もちろん、クラウドでも一時的なパフォーマンス低下は避けられないが、数分でサーバーの追加が可能なことは大きな利点である。物理マシンを追加する場合はこうはいかない。
企業内のシステムでは、それほど大きな負荷変動はないだろうが、夜間と昼間でサーバー台数を変更したり、データ分析をするときだけサーバーを追加したり、さまざまな負荷変動要素がある。1週間に24時間×7日連続稼働が当たり前だと思っている人もいるかもしれないが、「使いたいときだけ使う」ことで大きなコスト削減が可能な場合がある。台数の増減で性能を簡単に調整できないサーバーもあるが、Webサーバーなどは比較的簡単に調整できるので、今後もクラウドの利用は広がるだろう。
告知
勤務先のグローバルナレッジネットワークでは、10月16日(金)に「G-Tech 2015」というイベントを開催する。「ASAHI MOVIE CHANNEL」の話はないが、基幹システム集約の事例を紹介するセッションもある。入場無料。
「攻めのIT経営銘柄に選ばれたアサヒグループホールディングス様の基幹刷新への取り組み ~MCFrameによる基幹システム刷新事例 Fittingアプローチとは?~」
私は、Microsoft Azureの災害対応機能についてセッションを持つ予定である。
G-Tech 2015は11月6日(金)に大阪でも開催されるが、内容が若干違うのでご了承いただきたい。