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人材育成における各ステークホルダー(人事担当者・受講者・マネージャー・講師)の立場から、現在の企業教育での問題を提起し、解決策を処方していきます。特に「KKD(経験・勘・度胸)」で、講師の人や企業研修に疑問を持っている人事担当者・現場マネージャーの人必読です。

大人の学びとは

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ドチて坊や

 漫画「一休さん」をご覧になったことはあるだろうか。この一休さんに登場する「どちて坊や」なるかわいいキャラクターがいる。彼は、いつも「どちて?」と聞くため、さすがの一休さんも辟易気味だ。設定年齢は2~3歳、いろんなことに疑問をぶつけてくる。羨ましい限りの知的好奇心だ。一方、大人な私たちはどちて坊やのように学ぶことに貪欲ではないのだろうか?

ペタゴジーとアントラゴジー

 そもそも、子どもと大人では置かれた状況や目的も異なっている。なので大人の学習と子どもが学習というように分けて考えるほうがよい。アメリカの成人教育学者のマルカム・ノールズは子どもに対する学習観をペダゴジー(Pedagogy)、大人に対する学習観をアンドラゴジー(Andoragogy)というような分類を行った。

P-MARGE

 このアンドラゴジーの考え方の根幹をなすのがP-MARGEだ。私自身、研修内容を作成したり実施したりするときは、必ずP-MARGEに考えに沿っている。このP-MARGEとは大人の学びと方の特徴の頭文字をとったものである。

P(Practical)=実利的
M(Motivation)=動機が必要
A(Autonomous)=自律的
R(Relevancy)=関連性
G(Goal-oriented)=目的指向性がある
E(Experience)=経験

 これらの条件がそろったときに、大人はドチて坊やのように知的好奇心豊かに学習に取り組む。それでは、それぞれを詳しくみていこう。

  • Practical(実利的) 
     大人は、自分が置かれている状況にすぐさま利用できると感じるものにしか学習意欲はわかない。つまり、自分が「使える」と思えるものだけに興味を示す。なので、研修を設計する際には、必ず対象者の状況に合わせた内容にしなければならない。もし、状況とかけ離れていれば、机上の空論とお叱りを受けることが容易に想像がつく。
  • Motivation(動機) 
     そもそも大人は、現実の生活や仕事上の課題を解決したり、目標を達成しようと思う時に学習しようという気持ちが生じる。動機づけのためには、問題を解決した姿や目標を達成した姿を示したり想像させたりすることが重要になる。逆に、大人は動機が不明確であると、時間や金銭といったコストを払ってまで学ぼうとしないことが予想される。
  • Autonomous(自律的)
     個人的に大人の学びにおいて、これが一番特徴的なものだと思っている。ペダゴジーとアンドラゴジーの違いも自律的か否かで住み分けをされている。子どもの学びであるペダゴジーは、学ぶもの・学び方・学ぶ目的が教師から決められる学習観である。一方、アンドラゴジーは学習者が自分で学ぶための目的や方法、道具を自分で決定し、講師はそれらが上手くいくように支援する役割である。また、自律的であるほうが内的動機も刺激されやすい。
  • Relevancy(関連性)
     これは、実利的と密接に関係するのだが、大人は自分の置かれている状況と関連がなければ学習意欲がわかない。研修ではケース・スタディやアクション・ラーニングといった手法が多くのところで導入されている。それは、講義形式で知識を移転させることと比較して、より業務に関連性が高い内容だからである。
  • Goal-oriented(目的指向性がある)
     大人の学びの根源を辿って行くと、そこには必ず問題解決に到達する。問題解決とは言い換えれば目的指向性とも言える。動機付ける観点からも「~ために」ということを常に意識を心がける必要がる。
  • Experience(経験)
     大人はそれぞれ独自の思考フレームを構築しているが、これを一般にスキーマと呼んでいる。このスキーマは自分の経験や置かれている環境の影響を受け構築されている。子どもと比較すると大人は経験が豊富なため、しっかりとしたスキーマが出来上がっている。そして、学習する際の知識の関連付けをや意味付けはこのスキーマをベースに発展させている。また、大人は経験に対して非常に高い価値をおいているので、経験をベースにして学んだ知識やスキルを関連付けるほうがより学習効果が高い。

大人の学びとは

 大人の学びで大きな特徴は、P-MARGEのなかでもR(自律的)とE(経験)にあると考えられる。今まで、私たちは長い期間学校教育を受けてきた。この学校教育の特徴がまさにペダゴジー的学習観である。だが、一方で、大人は様々な経験からいろいろな価値観・思考・信念が確立されている。第三者から一方的に知識やスキルを有無を言わせず、頭のなかに叩きこまされたらどうなるだろうか?おそらく、気持ちに葛藤が生じ却って意固地になってしまう可能性すらある。そうなると本末転倒である。
 もし、研修やOJTにおいて効果がないと思われていたとしたならば、その研修やOJTがP-MARGEに即しているかどうか検討し直してはいかがだろうか。

 

 

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