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人材育成における各ステークホルダー(人事担当者・受講者・マネージャー・講師)の立場から、現在の企業教育での問題を提起し、解決策を処方していきます。特に「KKD(経験・勘・度胸)」で、講師の人や企業研修に疑問を持っている人事担当者・現場マネージャーの人必読です。

なぜ、目標は段階的に設定するのがいいのか?

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 ビジネス書や研修では、「目標は大きく設定するするよりも、段階的に設定する(マイルストーンを設ける)ほうがよい」ということをよく目にしたり耳にしたりします。本稿では、このことをシステム的に解剖していきたいと思います。
 まず、その前に社会心理学者のアルバート・バンデューラが提唱した『社会的認知理論』を理解しなければなりません。

「社会的認知理論」
 社会的認知理論とは簡単に示すと、「行動を認知的、行動的、環境的変数の継続的な相互作用としてとらえること」です。これでは、抽象的表現すぎて理解が難しいので、分かりやすく説明します。
 
バンデューラは期待感を二つに分けています。
・結果期待
結果期待とは、「このような行動をとればこのような結果や成果が得られるだろうという期待」です。具体例で示すと、「この学習をすれば知識や認識が広がり、営業成績も上がるだろう」というような期待です。しかし、思っただけでは絵に描いた餅にすぎず、実際の行動を伴わないと結果や成果は出ません。そこで、次の期待が示されます。

・効力期待
効力期待とは、「自分はその行動をうまくやり遂げられることができるだろうと感じる期待」です。この期待がないと、困難等にぶつかった時、簡単に諦めてしまいます。当然、大きな目標達成には困難がつきものですから、目標達成は遠くなります。この個人によって知覚された効力期待を「自己効力感」とよび、この自己効力感の高低が動機付けに大きく影響し、行動の持続性にも影響を与えます。


「自己効力感を身につけるには」
 そうすると、結果や成果をだすには自己効力感をいかに身につけるかが鍵になります。バンデューラは自己効力感を育てる要因として以下の4項目を上げています。

①成功体験を身につける
この体験を経験することで、「やればできる」という自信を深めます。

②代理的経験をする
これは、他者の行動を観察したり話を聞いたりすることで、自分がやっているようにイメージすることです。これは、セミナーや講演会に出席して話を聞いたり、読書、スポーツ選手や芸術家のイメージトレーニング、OJTにおけるモデリングなどを思い浮かべてもらうと分かりやすいでしょう。

③言葉による説得
皆さんは、他者(特に認めてもらいたいと思っている人)から「褒められたり」「励まされたりする」した場合、自信を深めたりモチベーションが上がったりした経験があるかと思います。

④生理的(情緒的)な喚起
これは言葉としては難しいのですが、具体的に示すとこうです。
皆さんは、「重要なプレゼンや試合などで極度に緊張したり手が震えたりしたが、いざ、実際やってみると何ともなかった」といった経験はないでしょうか?
そうです、生理的(情緒的)な状況を克服することで自信がつくということもあります。

 この4項目はランダムに並べているわけではありません。①~④は自己効力感を育てる影響力が強い順に並べています。ですから、直接体験や他者の行動を見たり聞いたりすることで得られる情報(代理的経験)は、言葉による説得や生理的(情報的)な喚起よりも自己効力感を高めることができます。


「自己効力感は負の作用も起こしうる」
 自己効力感を身につけることはプラスの作用を起こす重要な働きをしますが、一方で、負の作用を起こすこともあります。次に、負の作用を見ていきます。

①ある課題に対して高い自己効力感を持っている人がいる

               ↓
②しかし、実際の結果は、強い自信があったにもかかわらず失敗した
               ↓
③失敗したことで、期待と結果の落差を痛感する
               ↓
④失望感を感じ、その結果、再チャレンジしようとする意欲を失い、また失敗を認めず行動修正を回避する

 このような経験をされた人は多くいらっしゃるのではないでしょうか?特に④の状態に陥るのは避けなければなりません。なぜなら、失敗から教訓を学び(経験の概念化)、再チャレンジや行動修正をしなければ成長は図れません。


「自己効力感の負の作用を避けるには?~段階的目標設定の大切さ~」
 ここで、最初に述べた「目標は段階的に設定する」が効果を発揮します。高い目標設定だけですと、当然失敗するリスクも高くなります。だから、マールストーンを刻むように段階的に設定することでスモールステップしていきます。目標が高くなければ失敗するリクスも低くなります。そして、もう一つ、大きな要因があります。それは、自己効力感を身につける項目で述べたように、成功の直接経験を身につけることでより自己効力感も高まります。そうなることで、次の高い目標へチャレンジする意欲も高まります。
 しかし、ここで注意しなければならないことは、「最終的な目標と段階的な目標が関連しておかなければならない」ということです。「木を見て森を見ず」ではありませんが、身近で小さな目標だけに終始することで、大きな目標を見失うことは本末転倒でもあります。


「私の経験と結びつけて」
 私は、この仕事をする以前は全く畑違いの業界にいました。しかし、なぜ、ここまでこれたかというと、やはり自己効力感を高めたきた経験が大きかったと思います。特に、成功体験を身につけてきた(人によっては、たとえそれが小さな体験であっても)ことと、真似をしたいと思った人の仕事の取り組み方や研修の進め方を模倣したり、読書によって疑似体験をしたことが大きかったと思います。
 経験を重ねても、準備をしっかりして自信をもって望んだ研修で、思い通り行かなかったり失敗も経験しました。私たちは徹底した準備のもと研修を実施しますので、うまく行かなった時の失望感は大きなものです。そのならないためにも、研修のゴールだけでなく、研修時の項目毎の目標を設定しています。それはなぜかというと、項目事の小さな目標だと状況に応じて微調整も可能だからです。微調整をしながらゴールははずさないという認識で臨んでします。

是非、高い自己効力感を身につけてください。

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