新聞を定期購読する意味
【お願い】このエントリは、孤独死と遺品整理業について書かれています。人によっては不快感を感じる可能性が高い内容が含まれます。お食事中の方は、お読みにならないようお願いします。
【楽しい話ではないので迷ったのですが、知っておいた方がいいと考えて書きました。ほんとうにいいですか?】
「天国へのお引越しのお手伝い」をキーワードに、「遺品整理屋」を事業にしているキーパーズ有限会社という会社がある。テレビで何度か取り上げられ、ドラマになったことがあるので、ご存じの方も多いだろう。遺品整理屋とは、故人の残された家財をゴミではなく遺品として取扱い、遺品の整理を一括で代行するサービスだ。キーパーズは全国初の遺品整理の専門サービスとして、創業以来7,000件以上の依頼を受けた実績がある。
遺品整理業は故人の家から家財を運び出して処分するだけの便利屋のような仕事と思われるかもしれない。しかし、これに孤独死が絡むと、いきなり厳しい仕事になる。
孤独死の遺品整理の現場では、室内で死後数日~数カ月発見されなかった例が3割を超えるそうだ。特に最近のマンションは気密性がよいため、発見が遅れることが多い。
遺体がなんとかきれいな状態で残っているのは、せいぜい死後3日程度。その後、遺体は腐り始めて、死臭が家の外まで臭うようになる。さらに、ハエ、ゴキブリ、ネズミが大発生して食い荒らす。最後は、溶けて液体になってしまうそうだ。こうなると手でつかんで動かすことは無理で、バケツで汲み出すしかない。
キーパーズが呼ばれるのは、臭いに耐えかねた隣近所からのクレームで孤独死が発見された後、大家から依頼される場合が多い。吉田社長はその家の近くに行くと臭いでわかるそうだ。そして、キンチョールを両手に持って部屋に突入し、固体のように感じるくらいの強烈な死臭の中で、ウジ虫とハエの大群と戦うところから仕事が始まるのだ。
なんとか遺体と遺品を運び出して、清掃と消臭が終わっても、仕事は終わらない。部屋の片付けの費用負担や損害賠償をめぐる遺族と大家の争いに巻き込まれることがある。
遺族と言っても故人と親しいとは限らない。また親子・兄弟であっても何らかの事情により遺骨の引き取りさえ拒否する訳あり家族がいる。大家の立場で見れば、亡くなった人の部屋だけでなく、アパート全体の評判に大きなダメージを受ける。遺族に何らかの損害賠償を求めたくもなるのも無理はない。年金暮らしの遺族は、片付けの費用に加えて払いようがない損害賠償を請求されて、途方にくれてしまう。遺族も大家もまさに突然の災難だ。その間にはさまった遺品整理屋はたいへんな仕事なのだ。
孤独死というと、つい高齢者を思い浮かべがちだが、実際は30代、40代が意外と多い。実際、親元を離れて上京した大学生や、離婚して一人暮らしになった中高年など、一人で暮らしている限り、事故や病気による孤独死の可能性は誰にでもある。
現在一人暮らしで、万一の場合に周りの人にできるだけ迷惑をかけないようにしたいなら、とにかく早く発見してもらうことが重要だ。
吉田社長は、孤独死を心配する高齢者には、毎日公園に行って顔見知りを作るように薦めている。急に公園に来なくなったら誰かが通報してくれるからだ。
会社勤めなら無断欠勤が続けば会社の方で気がつくはずだが、実際に誰かが自宅へ行って確認するのは何日も後になるだろう。ドアに鍵がかかっていたら、そのまま帰ってしまうかもしれない。早期発見は期待できそうにない。
ここで安上がりで確実な方法がある。それは新聞を定期購読することだ。そして、配達された新聞が溜まっていることがあれば関係者に連絡してくれるように、新聞受けに書いておく。吉田社長のブログでは、この方法で実際に効果を上げているマンションが紹介されている。
「遺品整理屋は見た! 」と続編「遺品整理屋は見た!!天国へのお引越しのお手伝い」は、吉田社長のブログ【現実ブログ「現実にある出来事の紹介」】が話題になって、これをまとめて形で出版された。壮絶な現場のエピソードの中に、世の中が見えてくる。感情を抑えた淡々とした記述で、読み終わると気持ち悪いを超えた不思議な印象が残る。
家の本棚に並べておくには怖い本だが、読んでおいて損はない。少なくともこれを読めば、テレビのサスペンスドラマで手首を切って"美しく"自殺するシーンはあり得ないことがわかる。美しく生きるのはたいへんだが、美しく死ぬこともまた難しい。
もし吉田社長がブログを書かなければ、この本は出版されることはなかっただろう。これも実名ブログの力の一つと言える。