【顧客コミュニティを成功させる7つの秘訣】 ~ お客様の心にハイタッチするコンテンツを揃える
さて,成功の7つの秘訣,次のテーマは,お客様の心にハイタッチするコンテンツだ。
具体的には 前ブログ で明らかになった顧客のインサイトを直撃するような魅力的な情報を,投票やレビュー,コンテストなどのコミュニティ効果で昇華させ,他のサイトで得られないコンテンツに仕上げることだ。
今回は,この意味で100点満点といえる,米国の Flixster という特化型SNSを取り上げてみよう。
Flixster は,開始2006年1月からわずか3年で5000万人の会員を持つことに成功した映画コミュニティで,わずか20名弱の社員が支える独立系ベンチャーが運営している。独自SNS以外にFacebook上のアプリケーションとして1300万人,Myspace上のアプリケーションとして500万人など,多様なプラットフォーム戦略をとって成功している。これはメガSNSのオープン化に伴う「パブリック・コミュニティ」の賢い利用方法で,近日MixiもOpenSoical仕様でオープン化するので日本でも重要なコミュニティ戦略となる。こちらは次回に紹介したい。
彼らの最大の成功要因は「もうバスレの映画は見たくない」という映画ファンのインサイトにフォーカスし,そのための最高のコンテンツをそろえた点だ。具体的に見てみよう。
■映画ファンの知識と感性を集約
映画一作につき,次のような豊富なコンテンツが用意されている。
1. Details: 映画に関する詳細な基本情報
2. Recent News: 映画に関する最新ニュース
3. Cast: 出演者に関する情報
4. Video Clip: この映画の Video clip
5. Rate It: 自分の評価をつけたり、レビューを書く
6. Share It: 友達にこの映画を勧めたり,自分の評価ランクやレビューを共有する
7. Rating Average: 自分の友達や全体の平均評価ランク
8. More Like This: 類似した映画の紹介
9. Meet Other Fans: この映画のファンの紹介
10. Recent Reviews: 最新のクチコミ
この他,俳優のフォトギャラリーやゴシップ情報,映画クイズなど、映画ファンが喜ぶコンテンツが実に多様に配置されている。
このうち,1~4までは一般の映画コンテンツだが,5~10はすべてファンの集合知によって作り出されたCGMである点がポイントだ。
では具体的に,2008年度全米興行成績トップの「ダークナイト」のCGMを覗いてみよう。
(1) Rate It, Share It, Rating Averages, More like This
(2) Meet Other Fans
(3) Recent Reviews
注目すべき点はまずレビュー数だ。「ダークナイト」というひとつの映画に対して50万人以上がレビュー(Rate It)している。ちなみに 日本最大級のYahoo Japanの映画レビュー数は2000人,米国AmazonのDVDレビュー数は830人。レビューではなく気軽に投票できる Rate It により,ユーザー参加率が圧倒的に高まっているのが見てとれる。
類似映画の紹介(More Like It)も映画ファンにとっては素晴らしいコンテンツだ。ご覧の通り,こちらも Thumbs up / Thumbs down をクリックするだけで集合知を集めている。ちなみに余談だが,Netflix Prizeという米国最大級のネットレンタルDVDサービスでは,ユーザーが借りたビデオからお勧めをアルゴリズムで導き出すレコメンデーションエンジンを持っているが,その効果が低いため(平均評価が3,つまり普通),現在 1億円の賞金をかけて広く全世界から改善プログラムを求めるコンテストを実施している。しかし,このような感性の分野では明らかに集合知活用が優位だろう。
■自分の映画趣味と似た人と知り合える
さらに一歩すすめて,映画趣味の近似度を測定する機能も実装されている。
会員登録の際に50タイトル以上の映画にレビューを求められ,それを元に他ユーザーとの関連性が明示されるのだ。
1. Soul Mates(ソウルメイト)
2. Best Friends(大親友)
3. Good Friends(親友)
4. Friends(友人)
5. Casual Buddies(軽い知り合い)
6. Bad Match(悪い相性)
7. Run away ,fast(すぐに逃げろ!)
これにより,膨大な映画レビューの中から自分に近い趣味のものだけを参考にできる。さらには、世界中から自分に似た映画ファンを検索し,直接コミュニケーションすることもできる。
■自分の友人と映画体験を共有できる
そのように友人ができてくると,さらに一歩すすめて,彼らと映画体験を共有できる。これも画期的なコンテンツだ。例えば,連携しているYouTubeで映画のビデオクリップを見ながら,感想などをチャットで対話できる場を提供しているのだ。TwitterやMeeboとも連携されているので,サイト内の他コンテンツでも体験共有が可能だ。
Flixster は,映画ファンにとっては,さながらムービーのディズニーランドだ。自分のソウルメイトと対話しながらFlixster内のきらめくコンテンツを探索(デート)できるなど,映画を愛するファンにとって他のサイトで決して味わえない体験が提供されている。
大切なことは,単に交流の場を用意しても,人は集まらないし,対話もしないということだ。そのサイト独自の魅力が何より大切だ。しかしそれらの多くはCGMであり,工夫によってはローコストで集めることができる。このFlixsterは,独立系ベンチャーで,20人に満たない社員が運営している事実がそれを物語っている。
Flixsterのさらに詳細な分析は,ワールドカフェ笠原氏のコラムで紹介されているので参考にされたい。
■Flixsterの事例紹介
「もうハズレの映画を見ないで済む」 5,000万人の映画ファンが集まる巨大 SNS“Flixster”
急成長の秘密は、「体験」と「コミュニケーション」のデザイン。映画ファンのための巨大 SNS“Flixster”
なお,企業の「プライベート・コミュニティ」は多様であり,必ずしも Flixster のような多様のコンテンツが必要なわけではない。例えば商品開発コミュニティにおいては,「商品に対するユーザーニーズの見える化」や「製造部門社員とユーザーとの直接交流」がキラーコンテンツとなる。ソーシャルコマースにおいては,「商品力自体」と「信頼できる商品レビューやランキング」が最も重要なコンテンツだ。ただし,この Flixsterの着眼点はすべてのコミュニティに共通するものであり,貴社コミュニティ構築においても大いに参考になるはずだ。
さて,今回のテーマ,顧客コミュニティ構築7つの秘訣その3 「お客様の心にハイタッチするコンテンツ」 についてまとめてみよう。
1.Flixsterは,映画ファンに共通するインサイト「もうくだらない映画はみたくない」に着目した
2.そのインサイトを解決するために,ユーザーの集合知を多様に活用したCGM中心のコンテンツをそろえた
3.さらに,そのコンテンツを通じて,自分と趣味がぴったりのユーザーを紹介し,交流の場を提供した
4.一歩すすめて,同好の友人と,体験を共有できる場に昇華させた
なお,当社では,ワールドカフェ社と提携し,多様な海外事例に基づき,顧客インサイトを実現するためのコンテンツ企画をコンサルティングしております。ご興味ある方は,ご連絡いただけると幸いです。