ボーランドの開発ツール撤退は運用へのフォーカスの始まり
先週、米ボーランドが開発ツール部門を売却する、というニュースが報道されました。ボーランドの開発ツールは、多くのITエンジニアが仕事で、あるいは趣味で接してきた身近なものだったといえ、このニュースを寂しく思った人も多かったと思います。
とはいえ、このニュースを意外に思った人は多くなかったでしょう。残念ながら統合開発環境というのは、Windows用ではマイクロソフトが、JavaではオープンソースのEclipseが大きなシェアを獲得していていましたし、多くの開発ツールやフレームワークがオープンソースとして提供され、さらにミドルウェアベンダは開発者の気をひくために、それまで高価だった開発ツールを無償で提供し始めています。開発ツールを有償で提供する、というビジネスが困難な環境になってきたことは、誰の目にも明らかだったからです。
ボーランドは今後、ALM(アプリケーション・ライフサイクル・マネジメント)にフォーカスする、としています。
顧客はアプリケーションにかかるコストのうち、開発にかかるコストだけでなく、運用や改善にかかるコストも重視し始めていますから、開発だけでなく、運用や改善などALM全体にフォーカスすることはごく自然な成り行きのように思います。
もちろん、開発が乱雑に行われてしまうと、そのあとの運用で問題が続出したり、改善するのが困難なソースコードができあがったりしてしまうため、設計・開発フェーズの重要性が下がることはありません。この部分のノウハウを押さえていることが、ALMにおけるボーランドの強みだと思います。
一方で、運用フェーズでは運用プラットフォームと統合したALM環境を提供できるミドルウェアベンダのほうが、製品展開上有利だという見方ができます。しかし、ALMツールには設計・開発・運用・分析といった多くの機能が求められるので、IBMやマイクロソフトのような開発力が非常に高い最大手のミドルウェアベンダ以外は、ボーランドのような独立したALMベンダと手を組む道を選ぶかもしれません(サイベースやオラクルが自社DBの開発ツールとしてボーランド製品を採用したように)。
ボーランドはかつて、開発ツールからエンタープライズ市場へとフォーカスするために、社名を「インプライズ」に変えたことがありました。しかしこのときはうまくいかず、結局は数年後に社名をいまの「ボーランド」に戻しています。今回の決断は、数年後にどう評価されることになるのでしょうか。