ヘッドハンターが見た 「若手求む!」 の裏事情
うまく利用されるヘッドハンター
ヘッドハンティングをしていると候補者にうまく利用される...ということもある。
IT系企業のクライアントを多く持つ私は、当然のようにIT系エンジニアとお会いする機会が多い。最近お会いした、グロースハッカー(Webサービスの運用と改善を常時行い、ユーザーを獲得していくことがミッション)という今、旬なエンジニア職の彼もそんな一人であった。
彼は未上場ではあるが、急成長中のWebサービス会社に勤務する20代後半の新卒入社組。現職の環境や待遇、人間関係にもそれなりに満足しているようなのだが、このまま現職にとどまっていて良いのか?という30歳前後のビジネスマンがよく抱える葛藤を彼もまた抱いていた。彼が私に会ってくれた理由は、ヘッドハンティングの依頼主がどこの企業なのか?ということよりも、「現職に残るべきか?他の道を歩むべきか?それはいつなのか?」という客観的な意見をヘッドハンターから直接聞ける良い機会だと思っていたらしい。彼は屈託ない表情でそう言うと私の話に真剣に耳を傾けていた。
クライアントの候補者となる人材を探し出してスカウトをする、私たちのようなヘッドハンターがお会いする方々は、転職希望者だけではない。中にはグロースハッカーの彼のように転職意欲はないが、将来に漠然とした不安を抱えている方ともお会いする。優秀な若手エンジニアほど自身の市場価値や将来像を真剣に考えているように思う。私たちとしては当然、ヘッドハンティングできることを期待して候補者達にお会いするのだが、このようにキャリア相談にとどまるような機会も大いに結構だと思っている。
医者・弁護士・ヘッドハンター
というのもアメリカでは、「医者と弁護士とヘッドハンターはかかりつけを持っておけ!」と言われるように、ヘッドハンターは一生のうちに何度か訪れるキャリアチェンジの機会に欠かせない存在となっている。最初のコンタクトで転職意欲が無かったとしても、長期的なつながりの始まりなのだ。その為、他社の評価、考え方、現職の良さ、今後のキャリア、様々なことを考えていただく好機ととらえていただくのを、我々も良しとしている。
そんな中、優秀な若手エンジニアが次のキャリアに挑もうとする際に躊躇する理由として、最近多いのが口コミだ。各SNSをはじめ、企業の評判を現・元社員が書き込むサイトの存在が大きいように思う。これらの登場により、気になる企業の職場環境なども一層リアルにイメージすることが出来るようになったのである。
不平や不満が書かれている口コミを見てしまうと、そちらに引っ張られてネガティブになってしまう人は非常に多い。逆に企業側からするとあまり良くない評判がたってしまうと、その後のリカバリーはとても困難なものになってしまう。特にIT系のベンチャー企業は過労や教育体制の未整備で元社員たちに叩かれているのをよく見かける。実は、このような事態は知名度の低いベンチャー企業の採用をさらに難しくするという"袋小路に陥る"理由のひとつなのだ。
人を大切しない企業の悪循環
昨今、IT業界は慢性的な人材不足が続いている。中でも「若手エンジニアを採用したいが、なかなか出来ない」というものが多い。ここでいう若手とは第二新卒から30代前半にかけての実務経験3年以上で一から教育を施さなくてもある程度即戦力として計算できる人材層のことである。さらに話を聞いていくと、「社歴は1社、多くても2社以内」「常に最新の技術をキャッチアップすべく勉強していて」「個人的にスマホアプリの開発なども...」といった具合である。
こういったニーズがある背景には、「若手なら給与水準を低く抑えられる」、多少でも実務経験はあるから「教育コストを抑えられる」といったコスト最優先の本音が垣間見えるケースも少なくない。では、「そんな貴社における若手の離職事情はいかがですか?」とお聞きするとその点も大きな悩みの一つであるという。離職者もやはり多いということなのだ。給与水準や教育コストという金銭的な理由だけで若手を採用する企業は、離職率が高いことが多い。入社した社員達はその点を実感し、使い捨て的な扱いを受けていると感じれば口コミに悪評を書く。そんな流れが出来てしまうようなのだ。若くても優秀なら給与を出す、経験者未経験者に関わらず教育・研修コストをかける、先々のキャリアパスを明確に示す、というような人を大事にする企業とは離職率の面で大きな差が出てくる。
悪評を書かれたくないから人に優しくするというのは間違っているが、少なくとも離職、採用という悪循環から逃れる為には、人を大切にする経営を行わないと長期的には立ち行かないだろう。我々のようなヘッドハンターは、数多くの企業と接触して人に対してどのようなスタンスで経営を行っているかもしっかり把握しているもの。今、あなたが働く会社が人に優しいかどうか位は客観的にお伝えすることはできるだろう。私たちに会うかどうかは、お声掛けさせていただいた候補者次第ではあるが、まずはそんな観点でお会いされても面白いのではないだろうか?(千田 幸介)