ヘッドハンティングに尻込みする女性たち
優秀な女性をヘッドハンティングして欲しいという企業が増えている。「2020年までに指導的地位に占める女性の割合を30%に引き上げる」という安倍政権が掲げる目標に企業が呼応しているためだ。つい最近も1,000名規模の医療機器商社から「女性人事部長を外部から招き入れたい」という依頼をもらい、対象となる女性たちに頻繁にコンタクトをとっていた。依頼主企業の人事部長の定年退職に伴い、率先して女性を後任にすえたいというものだった。元々、女性社員が多い会社でもあり、会社としては女性部長の登用は積極的な様子。
さて、その候補者としてお会いした女性たちはいずれも、大手優良企業の人事職で、部門長経験はないものの、リーダーからマネージャーをしている優秀な40代。お会いすると「誰から私の評判を聞いたのですか?」とか「どのような会社が私をヘッドハンティングしたがっているのか?」などの興味はあるものの、依頼案件が人事部長だとお伝えすると尻込みをされる。その理由はというと、
「光栄なお話だけど私には荷が重い...」
「期待にお応えするだけの力量が私にあるのか...」
「男性のトップがこなしているだけの仕事量をこなせるか...」
といったような"人事部長"というポジションへの不安が中心なのである。男性をヘッドハンティングする場合、リーダーやマネージャーから部長職へ権限が大きくなるオファーは、高い確率で興味を持たれるものだが、女性の場合はそうはいかないようなのである。東京都の調べ(2013年)でも、上司から管理職になることをすすめられたら、男性の約48%が無条件で引き受けると回答したのに対し、女性はわずか16%にとどまっている。女性は管理職に登用されることをあまり好んでいないようである。
特に今回の件でコンタクトを取っているのは、優秀な女性。であるのにも関わらず、なぜ管理職(今回は部長職)を望まないのか?家庭と仕事の両立という問題は多くの女性にあるが、お会いした女性たちの話を聞いていると、その他にも"スペシャリスト志向"と"男性の上司像"という2つの意識が邪魔をしているように思える。
"スペシャリスト志向"については、転職をするにしても、現職に留まるにしても、自分の専門性を高めたいという意識が女性には強いように思う。例えば人事職の場合、事業会社での人事経験を活かした専門家(アドバイザーやコンサルタント)としての仕事や、教育・研修を専門にする講師になるなどがあげられる。年齢を重ねるにつれ、男性に比べてより転職が難しくなると言われてきた女性たちは、自力で生き残ろうという意識が優秀なほど強いのだ。その点で権限が大きい管理職となると、マネジメント力は身に付くが専門性が失われると思われているようなのである。
もうひとつの"男性の上司像"については、これまで接して来た自分の上司たちに男性が多かっただけに、部門長=男性というリーダー像が強く頭に刷り込まれているようなのだ。特に最近、お会いした方々は40代で、新卒時はバブル期。部門長となる上司はイケイケで昼夜を問わずに猛烈に働いた世代だ。「背中を見て育て」とか「モーレツ体育会系」といった男性らしいリーダー像があって、あんな働き方は出来ないと思っているふしがある。以上のような2つの意識が根底にある為、部門長への抵抗が生まれる女性はまだ少なくない。
そうは言っても、今回のような優秀な女性の"部門長候補"がどんどん組織のトップになってもらわないと、日本の女性管理職総数も増えない。その為には、女性の意識自体も変える必要があるだろう。
先述した、管理職に尻込みをさせる二つの意識もそうだ。スペシャリティについては、部門長というと、部下がやること全てに関して指揮命令すべきだ、と思い込みがちだが、自身の専門性を活かしながら、専門外の領域は部下に任せつつ、組織に相互学習を促していくようにすれば、部門長となってもスペシャリティを高めながら成果を上げる事は充分に可能であると思う。また、男勝りな女性リーダーでなくてもこれからの時代は大いにありだろう。「背中を見てついて来い!」ではなく、「背中を押すから行って来て!」というような女性ならではのリーダー像の方が時代にマッチする気がする。リーダーシップ抜群のトップダウン型ではなく、気配りや調整ごとを得意とするボトムアップ型の組織を創れる要素も女性リーダーにはあるのではないだろうか。
働く側の意識や価値観が多様化しており、マネジメント側にも柔軟性が求められる昨今、変化に対応しながら組織を成長させて行くためには女性リーダーの存在は必要不可欠だ。「今まで以上に裁量権ある仕事をしたい!」と目をキラキラさせながら、組織のトップを目指す女性が増える時代をつくるため、これからも優秀な女性が活躍できる管理職ポジションを提供していきたいと思う。(熊谷 孝裕)