給与が生涯上がり続ける企業とは?
日本企業の「3種の神器」をご存じだろうか?
1. 年功序列
2. 終身雇用
3. 企業内労働組合
という3つである。これを見て「おやっ?」と思われる方は多いだろうが、ご察しの通りこれは少々昔の日本企業の話。この考え方が広く日本で信仰されていたのは90年代までの話である。年齢や在籍年数といった年功序列型の給与制度は、成果主義の導入が叫ばれた00年ごろからその割合を大きく減らし、逆に職務や仕事内容に応じて支払われる仕事(能力)給が大きなウエートを占めるようになった。また08年のリーマンショックで大手メーカーの大リストラが始まり、大企業であっても終身雇用が約束されない時代へと突入し、「3種の神器」は過去の遺産のようなものとなってしまったのである。
ところが、この日本企業の「3種の神器」を復活させようという動きが出ている。当社と協業する外資系人事コンサルティング会社には、終身雇用を前提とした年功序列が維持できるように、「社員のスキルや経験を定年まで磨き続けていける制度づくりをお願いできないか?」という企業がメーカーを中心に増えているというのだ。
そもそも現在の賃金カーブを見てみると、50歳を過ぎたころに給与所得額はピークを迎える。晩婚化が進む昨今、ローンや子供の学費などでお金のかかる年齢は徐々に上がっており、定年65歳が定着した今、「賃金所得のピークを遅らせないものか?」と願うビジネスマンは多いだろう。しかし、個人の仕事内容や成果を給与に反映させる成果主義の色合いを高めると、その声と逆行するように活動力や吸収力の高い若年層のうちに給与所得額のピークが訪れて更に早まってしまう。以前より成果主義の色合いが強い金融業界などは、他業界よりそのピークを早く迎える傾向にあり、成果主義が一般化した際の日本の未来を示唆するようである。
仮にこのまま成果主義が日本で一般的なものとなれば40歳を過ぎたところで給与ピークを迎えることもあり得るわけだが、そうなれば将来の不安から「5年後、10年後が心もとないので転職しなければ」という動機にかられる人が増えるだろう。これは企業としては大きなロスである。そんな背景もあって、ミドルからシニア世代以降の付加価値を高めることで、賃金カーブのピークを後ろにスライドさせながら終身雇用を維持し、社員を財産として長期間保有しようと再検討する企業が出てきているわけだ。
その為に教育制度を整えたいという会社があるわけだが、先の人事コンサルティング会社に寄せられる要望で多いのは、「社員に真の教育制度を確立したい」という内容である。ここで言う"真の教育制度"とは、教育の機会を享受すればするほど仕事力があがっていく制度という意味である。つまり、1年目より5年目が、5年目よりは10年目が、10年目よりは30年目の社員の方が能力も仕事の付加価値も高くなる制度を確立しようというのである。仕事をする上での喜びは「成長感」であるというビジネスマンは非常に多い。そういう点では"真の教育制度"が日本に根付くようになれば、定年まで年功序列で働ける企業で成長感も持続できるという雇用者にとっても理想的な企業づくりが実現することになる。
ただ、この制度にはまだまだ課題も多い。加速する時代の変遷速度や製品・サービスに対する市場ニーズの短命化に対応するのは容易ではない。また、日々進むシステム化されたオペレーションの中での教育改革ではなく、属人性を持たせた現場力の増強を前提とすることも重要だ。WEB化、IT化に重点を置き過ぎて、人の力をないがしろにすることで能力向上を妨げては本末転倒である。
経験、研鑽を効果的に積むことを教育目的に置くことで、長期にわたってますます貢献できる社員を作ることは、従業員満足度の向上にもつながる。"真の教育制度"を確立して「3種の神器」の復活を目指す企業が増えてきているのは面白い傾向だと言える。かつて高度成長の屋台骨ともいえる「3種の神器」を再び輝かせるべく、この新たな教育制度の確立に企業もコンサルティング会社も奮闘し成功することを期待してやまない。( (株)プロフェッショナルバンク 児玉彰)