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夏目房之介の「で?」

2021.2.17 参沢厚さん逝く

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今日(2021年2月16日)、大学の専攻事務室に電話があり、参沢厚さんが10日に92歳で亡くなったとご兄弟からお電話をいただいた、という伝言をもらった。先方はどうやら僕の個人事務所だと思われてたようで、連絡先もわからない。
参沢厚さんと聞いても、彼の知人以外は誰のことかわからないだろう。名の知れた方ではなく、たまたま僕が昔バリでお会いして仲良くなった人だ。取材して「別冊サライ」の連載(1997~2000年)で記事にし、のち『あっぱれな人々』(小学館 2001年)に掲載した。こんな風に生きられたらいいだろうな、と当時の僕は憧れ、尊敬もした魅力的な方だった。彼の人生と、それについての僕なりの解釈などは、この本を探して読んでもらうしかない。
初対面は1994年、僕は53歳、参沢さんは65歳。バリのウブドの小さな宿。僕は色々煮詰まって逃げるように一か月もそこに居た。参沢さんは同宿で、毎日のように語らって出かけたり、日がな一日だらだらと雑談したりして飽きなかった。僕はたまたまそのとき、珈琲豆とミルとドリップ一式を持ち込んでいた。あの、珈琲とは思えないバリコピしかない時代だったので、珈琲好きの参沢さんは喜び、その後バリや日本で会うたびに「あれは美味しかったなあ、またウブドで飲みたいですねぇ」とおっしゃった。
その後、長くお会いしないまま訃報を聞いた。お歳からすれば天寿をまっとうされたのだと思う。何度か事故に会い「死ぬのはそれほど怖くない」ともおっしゃっていたが、安らかな最期であったらと切に思う。心よりご冥福をお祈りします。いずれ僕も参りますので、そこでまた珈琲を淹れましょう。しばし、さようなら。
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