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夏目房之介の「で?」

奥田鉄人(ロボット)『人造人間エルヴィス』

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おぉい、ロボットぉ。
読んだよ。面白かったぜぇ~。
『人造人間エルヴィス』光文社

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何しろ、最近お仕事のおベンキョで読まなきゃならない本や資料やゲラが多くて、自称「遅読の王」としては、なかなか読めなくて、すまんね。ホント、ひっさしぶりに小説読んで、楽しい時間だったよ。

ロックンロールの魂を持ち、エルヴィスからエディ・コクラン、ジャニスやファッツ・ドミノまで、あらゆる声と歌い方を自在に操り、過去の名ロック・ギタリストの奏法も再現できるロボットにして、ブルース・リーの格闘技も埋めこまれた最強の人造人間エルヴィス・リー。彼にからむ、老ロックンロールの後見人やら、出入りというと高倉健のコスプレをする武闘派やくざ、新興の外国人ギャングの一団とサイボーグ化したボス、まるで『ロボコップ』に登場するようなロボット兵器を開発する内調のエリートに、『ブレードランナー』ばりの高層ビルに住む芸能界を牛耳る老異人・・・・。『ブルースブラザース』みたいな教会でのゴスペル場面や『スパイダーマン』を連想する摩天楼をすり抜けるエルヴィスの跳躍力・・・・。読みながら、ずっと望月峯太郎『バイクメ~~ン!』のイメージを想像してたよ。望月がマンガ化してくれないかな。あ、奥田が自分でやればいいのか。
映画、マンガ、ロック・・・・あらゆる夢想を荒唐無稽にちりばめたお遊びノヴェルだけど、惜しみなく盛り込んだアイディアのわりに、ちょっと短いぜ。続きを読みてぇな。サイドストーリー的な短編でもいい。そんときは、ごくフツーで気弱なメガネ君的な人格類型を使ってほしいな。

個人的には、画期的な有機コンピューターを開発した芸能界の老ボスが、その兵器利用の誘いを「モラルじゃなくて趣味の問題」だといってはねつける場面が好きだが、このボスの複雑怪奇さが足りない気がするんだなあ。次回、「帰ってきたエルヴィス」では、彼の描写にもっと踏み込んでくれよ。そんで、もっと読ませろよ。

ともあれ、最高に楽しいロックンロールな小説だったぜ。

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