新刊ちょい読み 2012/1/1~1/10
年末恒例の"来年こそはシリーズ"の中で買ったものなのだが、年が変わると気も変わるもので、すっかり放り出しそうになっていた一冊。まあ人間には、向き不向きというものがありますからね。
しかし本書を少し読み始めると、自分の走る走らないはさておき、十分に楽しめる一冊であるということが分かった。古今東西の「走り」の歴史が一望できる、壮大な文化人類史となっている。
なぜ人は走るのか?その目的としては、古代のインカ帝国、中央ヨーロッパ、中国やインドなどに見られる伝令システムとしての役割や、古代ギリシャ、ローマなどに見られる競技としての役割などが挙げられている。 しかし最も興味深いのは、古代の時点で既に、現代と同じように自分自身の鍛錬を目的として走る人達が存在していたということである。ローマ帝国ストア派哲学者セネカはランニングを哲学の発想の源に置いていたというし、日本の霊峰、比叡山にも俗に“マラソン僧侶“として知られる修行僧の一団などが存在している。
その他、初期の箱根駅伝に関する牧歌的なエピソードなども面白い。まあ、読んでる暇あったら走れよって話なんですけどね。ほんとに。
ああ、肉が食いたい。しかも飛びきり上等なヤツ。飽きるほどお節を食べたわけではないのだが、そろそろ禁断症状が出ている。本書によると、こういう状況に陥ることをミートハンガーと呼ぶらしい。
しかし本書の著者こそが、真のミートハンガー・キングだ。人はなぜステーキを食べる時に牛について熱く語らないのか ― ワインを飲む時には、ぶどうの話を存分にするのに。そんな疑問を感じたところから著者の壮大なる旅路が始まる。本書で訪れた国は4大陸7ヵ国、45キロ分のステーキに舌鼓を打つことになる地球約10万キロ制覇の旅である。
いわゆるグルメ本と違い、歴史や考古学の分野に踏み込んでいるのが特徴的だ。例えばフランスで食したのは、ラスコー壁画にも描かれている野生牛オーロックス。しかもそのオーロックスを再生する技術は、著者の先祖を殺害したナチスによって開発されたものである。そんな複雑な背景を背負いながらも、著者はひたすら肉を食べることに邁進していく。
また、肉を食べるシーンの描写もシズルが満載だ。日本のステーキハウス瀬里奈を訪れ、神戸牛を食べた時のコメントは以下のようなもの。
牛肉ならではの甘くて木の実のような風味がしたものの、温かいバターでコーティングした絹糸よりもなめらかな食感と比べると、それすら付け足しみたいなもの。
ちなみに著者が瀬里奈の店員に、どれくらいの頻度で肉を食べているのか聞いたところ、「私は魚の方が好きでして」と、すました顔で答えたそうだ。おいっ瀬里奈!
最終的に著者は、食べるだけでは飽き足らず、自分で牛を育ててみることにもチャンレジしてしまう。はたして自分自身が手塩にかけて育てた牛肉のお味の評価はいかに? ミディアムレアで読むのが、おすすめな一冊。
世界は、人類が地球環境と調和しつつ平和で豊かな暮らしを続けるための現実的なエネルギー源として、原子力発電の利用拡大を進め始めていました。このような中で、東日本大震災および福島第一原子力発電所の事故が起こりました。我が国は、事故終息に向け最大限の力を発揮しなければなりません。 (※東京大学大学院工学系研究科 原子力国際専攻 「震災後の工学は何を目指すのか」の一節より)
このような文章が「東大話法」の典型であると、いきなり切り捨てられている。まず、「世界は」と言うことによって責任関係を曖昧にしていること、そして「我が国は・・・しなければなりません」という一文に見られるような、自分たちが「国」を代表しているいう意識。この話法こそ間違いの元凶であるというのが、著者の主張だ。しかも、切り捨てているのが現役の東大教授であるというから面白い。
本書では東大話法規則というのが全部で20個紹介されているのだが、最も興味深いのは以下の規則だ。
東大話法規則⑧ 自分を傍観者と見なし、発言者を分類してレッテル貼りし、実体化して属性を勝手に設定し、解説する。
この話法は、以下のステップによって構築される。
- ある問題について書かれたものを大量に集め、幾つかに分けて分類する
- それぞれの代表的論者を二、三取り上げて、主張を整理する
- 自分の意見はどれにも属さないで、全体を相対化するものだというスタンスを取る
- どれかに属する人は、その外側に立って「冷静に観察」している人よりもレベルが低いと捉える
このようなものが、傍観者的態度の典型であるというそうだ。う~ん、心当たりあるな。
本書は原発をテーマに書かれており、刺激的な印象も受けるため、そこに目が行きがちではあるが、この問題は原発のみに限らないのだと思う。世の中に溢れている文書はなぜ分かりづらいのか、なぜ議論は噛み合わないのか、そんなことを考える際の一助になりそうな一冊である。
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