【書評】『フィルター思考で解を導く』:DJに学ぶキュレーションの極意
カリスマDJ 沖野修也氏による、情報処理をテーマにした一冊。情報氾濫社会における情報の収集、選別、編集に関するテクニックを、DJならではの視点で余すことなく伝えている。著者によれば、DJの仕事とは、「世界中の情報の中から常時タイムリーなものを探し出し、すでにアーカイブ化された知識と照合する。さらに、条件をクリアする情報を組み合わせ、瞬時にライブで提案する」ということである。つまり、DJの仕事には、キュレーションの極意が詰まっているということなのである。
◆本書の目次
第1章 フィルターの時代
第2章 フィルターになるということ
第3章 何を、どのようにインプットすればいいのか?
第4章 どうやって価値ある「情報」を作り上げるのか?
第5章 どうやって解を導くのか?
DJの世界において、一線で活躍し続けるためには、十年以上前から、今で言う「グローバル」、「ソーシャルネットワーク」、「インターネット」的な感覚が備わっていなければならなかったという。そんな最先端の世界で、「感覚の提案」を行ってきたDJの思考法には、今を読み解くための数々のヒントを見ることができる。
◆本書で紹介されているキュレーションの極意
・同時並行で処理せよ
DJの仕事は、流れている曲を聴きながら、次の曲をチェックし、音を調整するためにイコライジングを行い、観客の反応もチェックする。大量のインプットを行うためには、同じように限られた時間を有効に使えないかを考えている。各々の目的を明確にすることが、時間を生み出すためのモチベーションを生み出す。
・過去との対比に着目せよ
未来のヒントは、過去にある。30年後も生き残る音楽を判断するためには、30年前の音楽を実際に今聴けるかということが参考になる。古いものと新しいものを比較することで、普遍性という尺度を規定し、未来を知る手掛かりを見つけることができるのだ。
・抽象度を高めよ
曲を覚える時には、曲のタイトルではなく、自分のアーカイブの中でどういう位置づけにあるかという基準で覚えている。抽象度を上げて、情報の総体として覚えることの方が有益なのである。
・関連性を照合せよ
天才と呼ばれるDJは、感覚的に音楽を分析し、潜在意識レベルで音楽の関連性を見つけ、クラブの現場でそれをつなげていく。そのためには、タグをつける要領で情報の中身をシンプルに抽出していくことが必要である。
・あらゆるパターンの組み合わせを考えよ
物事を組みわせる時に大切なのは、「なるべく、結びつきそうでないモノを組み合わせる」ということである。相反するものを結びつけるクラブシーンにおける音楽実験が、さまざまなマーケットを生み出してきたのである。
これらの極意を本のケースに置き換えて考えれば、多くの書評ブロガ―にとって非常に有用なものにもなる。同時並行で何冊かの本を読み、過去の本、他の本との関連性を見出し、組合わせを考える。本の内容と読み方に、意外性のある組み合わせが成立したときに、良い書評は生まれる。願わくば、DJがプレイするようなイメージで、本を紹介していきたいものである。
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