【書評】『天才と発達障害』:視覚優位と聴覚優位
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単行本 / 314ページ / 2010-10-09
/ ISBN/EAN: 9784062597029
さて問題です。「広場に子供たちが集まってきました。まず一番目に、長い黒ズボンをはいた”ひろし君”がやってきました。二番目に空色のトレーナーを着た”とおる君”が、三番目は赤いリボンをつけた”ともこちゃん”が、四番目にピンクのセーターを着た”めぐみちゃん”がやってきました。さらにそこへ茶色のかばんをもった”いちろう”君がやってきました。」
「さあ二番目にやってきた子供が身に着けていたものは、何色だったでしょうか?」
この問題を、前の文章に戻ることなく、瞬時に答えることができた人は、おそらく「視覚優位」の人だろう。視覚優位の人は、文字を読みながら映像で思考するほか、色優位性という特性を持つことが多い。そのため映像として、空色のトレーナーを着た子供のことを記憶している可能性が高いのである。
一方で、聴覚優位の人というのも存在する。こういうタイプの人は言葉や文字での解説のほうが記憶や処理、そして理解をしやすいタイプの人である。先ほどの質問が、「さあ二番目にやってきたのは、何君だったしょうか?」という質問であったら、答えることができたのかもしれない。
本書はそのような人間の認知を「視覚優位」と「聴覚優位」に分けて解説した一冊である。「視覚優位」の代表としては建築家のガウディ、「聴覚優位」の代表として小説家のルイス・キャロルの事例が取り上げられている。著者は室内設計家の岡 南氏。視覚優位の持ち主とのことで、「小学生の頃、頭の中になぜかカエルを左斜め上から見ている映像があり、そのまま手というプリンターを使い、写していました」というエピソードが紹介されている。
◆本書の目次
第一章:あなたは視覚優位か、聴覚優位か第二章:アントニオ・ガウディ「四次元の世界」第三章:ルイス・キャロルが生きた「不思議の国」
私のような多読癖のある人間は、おそらく「聴覚優位」の傾向にあるだろう。一見、視覚を通して情報をインプットしているように思えるが、黙読という行為は、頭の中で音声に変換し認知を行っているのだ。つまり、黙読とは聴覚インプットの高速化ということにほかならない。そのような立場から本書を眺めると、ガウディの「視覚優位の世界」というのは、興味深くてたまらない。
ガウディの設計特徴は、動線計画に現れるという。日ごろ、人や物の動きや見たままを映像で記憶しているから、頭の中に三次元の疑似空間をつくり、その中を自分が歩き回り、見まわすこともできるのである。それが、住み手に取っての居住性の良さにつながるということだ。ガウディ自身は視覚で考えるということをこのように表現している。
建築家とは、作る前に、諸構成要素を造形的にも距離的にも適切に配置・結合し、その全体像を明確に見ることのできる総合する人のことである。作る前のこの最初のビジョンには、構造デザインと色彩計画もイメージされている。
この一文こそが、映像思考の特徴である「全体優位性」、「色優位性」、「同時処理」、「関連性の重視」、「空間的・総合的」という、その全てを言い現している。
一方でガウディは、ディスレクレシア(読字障害)の疑いがあり、また映像で思考しているために、周囲への伝達に若干の難があったようである。しかし、ガウディは自分自身の認知の特徴を良く理解していたからこそ、周囲との信頼関係を築くことができた。また、偉大な業績を残している時には、周囲もまたガウディへの良き理解を示している。その中には、聴覚優位に分類される人もいたのであろう。
「視覚優位」と「聴覚優位」が、うまくコミュニケーションを取れれば、とてつもなく良いものができあがる。本書もまた、その好例である。視覚優位の世界を言語化するためには、著者と共同研究者の間で気の遠くなるほどの対話がなされたことであろう。また、本エントリーでは割愛するが、後半に紹介されている「吃音障害」、「相貌失認」に悩まされたルイス・キャロルの話も興味深いものであった。
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