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【書評】『移行化石の発見』:偶然の産物としての人類

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文藝春秋 / 単行本 / 445ページ / 2011-04
ISBN/EAN: 9784163739700

ダーウィンの進化論によると、人の祖先は類人猿ということになる。しかし、これはあくまでも理論にすぎず、その過程にはブラックボックスに包まれた部分が多かった。古代の動物と現生の動物をつなぐ「移行期の種」となる化石が、見つかっていなかったからである。この「ミッシングリンク(失われた鎖)」とも呼ばれるピース、1980年以降、とりわけ21世紀に入ってから、相次いで発見されているという。本書はその移行化石に着目し、人類の進化について論じた一冊である。

この移行化石の発見が意味するところは、非常に大きい。これまでにおいて、進化のブラックボックスは二つの側面から捉える事ができた。一つは、生物学的な見地としての突然変異、もうひとつは、聖書に記されている神による創造である。この二つの視点による対立は、非常に根が深いものである。そして、これら移行化石の発見は、創世記に記された「われわれに似るように、われわれのかたちに、人を作ろう」という記述との矛盾を突き付けるものでもあるのだ。しかし、神学の限界を提示することが本書の目的ではない。むしろ神学への理解こそが、数々の進化論を生み出してきた側面もある。良くも悪くも、神学は科学のOSのような役割を果たしてきたのである。

◆近年における移行化石の発見
1981年 海で暮らすようになる前の移行期のクジラの化石を発見
1996年 首から背筋にかけて羽毛の痕跡の残っている恐竜の化石が発見
2001年 直立歩行するサル、最古のヒト族を発見
 
2002年 複数の指を持つウマの存在を決定づける調査
2004年 魚と四肢動物のへの移行途上にある化石が発見
2007年 顎で音を聞く哺乳類の標本を記載
2007年 水陸両生のゾウの存在を裏付ける調査結果
各々の発見以上に驚くのは、それぞれの発見がいかに話題にならなかったかということである。これは、メディアにおける科学への興味の薄さということもあるが、進化論を考える上においては、単独の発見そのものに意味は薄いということにほかならない。全体像というアーカイヴの中で位置づけて、初めて価値を持つからである。そして、この点において著者の仕事ぶりは見事である。様々な仮説や事実を丁寧に繋ぎ合わせ、壮大なスペクタクルを紡ぎだしている。それでも、進化は一直線上ではなかったとういことが分かり、多数に枝分かれした樹形図上の方向に、偶然変化したということしかわからない。

移行期の実体が解明されるにつれ思うのは、人を人たらしめているものは何かということである。その線引きは、知性や心を持つのか否かというところにある。だからこそ、もう一度歴史を巻き戻しても再び人類が誕生する可能性はないことを、じっくりと感じ入ることができる。そして、そう思えることも一つの進化なのである。


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