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【書評】『ヤクザ1000人に会いました!』:ヤクザの日常

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著者: 鈴木 智彦
宝島社 / 単行本 / 287ページ / 2011-04-08
ISBN/EAN: 9784796682671

「実録、ヤクザの実体!」などというタイトルを目にすると、恐ろしい世界を想像するかもしれない。しかし「実6」などと揶揄されることもあるように、「実録小説は事実が6割」というのが通説であるという。表向きはノンフィクションを標榜しているヤクザ記事も、その大半には虚構が混じっていることが多いのだ。ヤクザにだって、ハレもあればケもある、恋もすれば悩みもある。本書はそんなヤクザの実像に限りなく迫った一冊である。

特筆すべきは、ヤクザ1000人に敢行した前代未聞のアンケート調査である。調査項目は以下のようなもの。
Q1:あなたの血液型はなんですか?
Q2:実父の職業はなんですか?
Q3:子供の頃、身近にヤクザはいましたか?
Q4:いつから不良になったのですか?
Q5:前職はありますか?よければ教えてください。
Q6:なぜヤクザになったのですか?
Q7:少年院を含め、刑務所経験はありますか?
Q8:ヤクザを辞めたいと思ったことはありますか?
Q9:他団体に移籍したいと思ったことはありますか?
Q10:親分を尊敬していますか?
Q11:好きなブランドを教えてください。
Q12:親分に女房、自分の女を寝とられたらどうしますか?
Q13:兄弟分は何人いますか?
Q14:結婚していますか?
Q15:特定の愛人はいますか?
Q16:子供は何人いますか?
Q17:子供がヤクザになりたいといったらどうしますか?
Q18:あなたの宗教はなんですか?
Q19:ヤクザは悪だと思いますか?
Q20:いずれヤクザは消滅すると思いますか?
例えば、特定の愛人の数に関する質問。「3人」が21.7%で第一位、「2人」が21.3%で第二位、「1人」の7.2%を含めると過半数になる。一般人と比べればもちろん多いはずだが、妙にリアルな数字が並んでいる。さらに後半、とある組長の7人の愛人全員にインタビューをしたエピソードが紹介されている。この組長の場合、順番の上位にいる女性が、下位の女性の存在を全く知らなかったそうである。1号は2~7号までを知らず、2号は1号の存在を知っているが、3~7号までを知らない。このケース、何も知らない1号さんが幸せなのか、全てを知っている7号さんが幸せなのか・・・

ヤクザに一番人気の刑務所は、網走刑務所だそうだ。通常冷暖房のない刑務所も、網走だけは暖房を入れないと凍え死んでしまうため、夏は元々涼しく、冬は暖かいのである。そして、刑務所にいる間は、法律や経済の専門書でスキルアップを図るヤクザも多いという。経済情勢の厳しい中でも、自分の才覚で暴力を金にする必要があるのだ。特にネットでのマネタイズは、ヤクザの間でもホットなテーマである。かつては、ミカジメ料といえば、おしぼりやおつまみが相場だったが、今はレンタルサーバーに手を出している組もある。これもある意味、ショバ代であることに違いはない。

そんな中、ソーシャルメディアの波は、まだヤクザの世界を襲っていない模様である。コミュニティの絆を重視し、顔で人と人をつなぐヤクザというプラットフォームは、その世界そのものがソーシャルメディアのようなものである。むしろTwitterやFacebookとは、競合関係にあると言ってもいいのかもしれない。しかし、この世界にもソーシャルメディアが行き渡った時、組長を頂点とする組織のありようがどのように変革されるのか、見たようでもあり、見たくないようでもある。


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