【書評】『諜報の天才 杉原千畝』:時空を超えたインテリジェンス
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単行本 / 213ページ / 2011-02
/ ISBN/EAN: 9784106036736
1939年、ドイツのポーランド侵攻を機に、欧州大戦が勃発した。リトアニアには多くのポーランド系ユダヤ人が逃れており、反ユダヤ思想の強いソ連において非常に危険な事態におかれていた。その状況下において、日本を通過してアメリカなどに逃げれることを希望した避難民に、数千通もの通過ヴィザを発給した人物、それが杉原千畝である。後に「命のヴィザ」と称されたその功績は、国際的にも高く評価され、イスラエルから日本人として唯一の勲章が贈られたという。本書はそんなヒューマニストとして名高い杉原千畝を、諜報家としての側面から分析した一冊である。
◆本書の目次
プロローグ:杉原の耳は長かった第一章 :インテリジェンス:オフィサー誕生す第二章 :満州国外交部と北満州鉄道譲渡交渉第三章 :ソ連入国拒否という謎第四章 :バルト海のほとりへ第五章 :リトアニア諜報網第六章 :「命のビザ」の謎に迫る第七章 :凄腕外交官の真骨頂エピローグ:インテリジェンス・オフィサーの無念
「諜報」とはインテリジェンスの和訳であり、「地道に情報網を構築し、その網にかかった情報を精査して、未来を予測していく。そしてさらに一歩踏み込んで予想される未来において最善な道を模索する」ということである。「謀略」と誤解されることが多いが、「謀略」は未来を都合の良い方向へ強引にねじ曲げるものであり、「諜報」とはむしろ正反対にある。
杉原を一躍有名にした「命のヴィザ」については、今を持って謎が多いという。外務省と杉原との電報のやり取りに不可解な点があまりにも多いのだ。数の不一致、一度ヴィザが発給された人物への謎の照会、返信までの間隔の開き。そして、その謎は、当時ドイツとの同盟関係にあった日本の外務本省を欺くための「アリバイ工作」であったことが本書によって導かれる。彼のインテリジェンス活動の本領は、自国の官僚組織に対して発揮されたのである。
それにしても、そこまでの危険を負いながらも、杉原をビザ発給へと決断させたものは何だったのだろうか。重要なヒントが「決断 外交官の回想」という手記に記されている。
曰く、全世界に隠然たる勢力を有するユダヤ民族から、永遠の恨みを買ってまで、旅行書類の不備とか公安上の支障云々を口実に、ビーザを拒否してもかまわないとでもいうのか?それが果たして国益に叶うことだというのか?
この文面が示すのは、杉原がユダヤ人というものの未来を的確に予測し、最善な道を模索したということに他ならない。省益より国益を考え、個人でリスクを取って決断した杉原千畝、その恩恵は百年近く立った今でも、我々が預かっているものである。百年先の国益を考えた決断ができるか、個人でリスクを取った判断ができるか、今こそ、彼のインテリジェンスに学ぶところは大きい。
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