【書評】『ミニコミ2.0』:メタメディアという可能性
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著者:
単行本(ソフトカバー) / 192ページ / 2011-02-24
/ ISBN/EAN: 9784990523510
その気になれば、いつでも、どこでも、誰でも、気軽に何でも配信できる時代である。メディアを運営する単位が企業から団体・個人にまで行きわたり、ミニメディアという形のメディアが乱立するようになった。それはかつての「ミニコミ誌」と呼ばれたものとも違い、多様性と発展性を帯びた新しいメディアとコミュニケーションを生み出している。本書はそんな「ミニコミ」の未来を、対話によって描いた一冊である。
この判型や文体を見ると、かつて広告業界にあった「広告批評」を思い出す。その当時には分からなかったが、無くなった今思うのは、業界内からの健全な批判こそが、業界の進化を生み出してたということである。そういった意味で「ミニコミ」という小さなメディアに、これだけの錚々たるメンバーが終結し、批評を行っていることこそが一つの事件であり、新しいメディアへの可能性を感じることでもある。
◆本書の目次
Ⅰ 出版
宇野常寛×黒瀬洋平×橋本倫史 ミニコミ・コミュニケーション宇野常寛×速水健朗 「誰でもメディア時代」の雑誌小林弘人×新城カズマ 「誰でもメディア」時代の情報戦略市川真人×西田亮介 メディアと流通の未来
Ⅱ 放送/空間そらの Liveメディアが情報を繋ぐ李明喜 後期デザインへ
Ⅲ インターネット片桐孝憲 pixivを巡るコミュニケーションとプラットフォーム湯川鶴章 情報化社会の条件津田大介 Twitterの公共性とミニメディアの可能性
Ⅳ メディア東 浩紀 メディアを考える、メディアから考える
印象的なのは、いずれの語り手も「ミニコミ」を礼賛もしていなければ、否定もしていないということである。それは「マスコミ」に対しても同じような態度であり、各人が特有のバランスで臨んでいる様子が伺える。
その中で新しく見えてきたものは「メタメディア」という概念である。「メディアのためのメディア」、「送り手のためのメディア」と言ったら良いだろうか。かつての自己満足型の閉じた「ミニコミ」とは違い、新しい「ミニコミ」は、シーンへの影響力や積極的な関与を希求する。ミニコミの先にいる1000人が、さらにその先の10万人に網状に広げるために、レガシーメディアたる「マスコミ」をどのように組み込むのか、そして「ミニコミ」が「メタメディア」としてどのような役割を担うのか、そこが今後の争点になってくるのではないだろうか。
この状態が「マスコミ」から「ミニコミ」へという大きな変化の過渡期に生じた「つなぎ」としての状態にすぎないのか、そして「メタメディア」という概念が「ミニコミ」や「マスコミ」にどのような変容をもたしていくのか。今後の動向に向けて、非常に興味深い示唆を得た一冊であった。
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