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【書評】『評価経済社会』:岡田斗司夫というプラットフォーム

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ダイヤモンド社 / 単行本(ソフトカバー) / 304ページ / 2011-02-25
ISBN/EAN: 9784478015889

オタキングex社長 岡田斗司夫氏による「評価経済社会」をテーマにした一冊。これからの社会のキャピタルとして注目を集めているテーマだが、ソーシャルメディアによってもたらされた変化の一端として語られることが多く、このテーマにここまで正面から取り組んだ書籍はなかったのではないだろうか。

◆本書の目次
第1章:貨幣経済社会の終焉
第2章:パラダイムシフトの時代
第3章:評価経済社会とは何か?
第4章:幸福の新しいかたち
第5章:新世界への勇気
著者ほど、世の中のパラダイム変化を感じている人は、なかなかいないだろう。ほんの数年前まで、オタクというサブカルチャーの辺境にいたはずの人が、いつのまにかメインストリームで世の中の動きを語っている。これこそが、社会の変容をあらわしている。そして著者は、自身の受け入れられ方の変化を通して、世の中を感じ取ってきたのではないだろうか。

パラダイムシフトへの分析にも如才がない。はるか一万年前の始代から遡り、過去に起こったパラダイムを検証している。「豊富なものをたくさん使うことを格好良いと感じる美意識により、パラダイムシフトは加速する」という指摘は、実に的確。また、貨幣だけでなく科学主義も切り捨てているところが、著者の論考のユニークな点である。

◆本書によるパラダイムシフトの分析
始代:モノ否定、精神性優位の文化⇒農業革命

古代:モノ余り、領土・エネルギー不足⇒「モノへの関心・欲求」が否定的イメージへ変化

中世:モノ不足、時間余りの時代⇒産業革命

近代:モノ余り、時間不足の時代⇒情報革命

現代:モノ不足、情報余りの時代
著者のインテリジェンスは、「貨幣経済」から「評価経済へ」というパラダイムシフトを、安直な二項対立として片付けていないところにある。実際、本書自体、著者が執筆料を受け取らない「FREEex」という独特な仕組みによって作られている。いったい、どこから執筆料を調達しているのか。それは社員と呼ばれるメンバーが社長にお金を支払うことによって賄われている。本書も、その特有なプラットフォームの集金装置としての一端を担っているということなのだろう。つまり、貨幣経済を完全に否定するのではなく、座標軸を組み替えることにより、新しい経済圏を作っているのだ。

巻末のクラウド・アイデンティティに関する論考も必見である。Twitter上のRTや同意という行動を、「アイデンティティのクラウド化」というテーマに置き換えた分析は奥が深い。そして、自分自身の存在をノートに見出すことで、『あなたを天才にするスマートノート』という同時発売の書籍へ誘引する。本書は三冊同時刊行プロジェクトの一環にすぎないのである。うーん、二冊目行くか!

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