【書評】『アルバニアインターナショナル』:趣味としての共産主義
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著者: 井浦 伊知郎
社会評論社 / 単行本 / 391ページ / 2009-08
ISBN/EAN: 9784784511112
一般的にはめったに話題にのぼることのない国、しかし一部の奇書マニアから熱い視線を浴びている国、それがアルバニアだ。本書はその一部の熱狂的な支持に、火をつけた一冊でもある。タイトルの副題に「鎖国・無神論・ネズミ講だけじゃなかった国を知るための・・・」とあるが、それすら知らなかった人も多いのではないだろうか。
まず疑問なのは、この本の著者は、なぜアルバニアの本を書こうと思ったのかということである。確かに尋常ではない知識量の持ち主ではあるのだが、”あとがき”などを見ても、それほどアルバニアに強い思い入れがあるというわけでもなさそうだ。調べてみると、どうやら編集者の濱崎誉史朗という人が、黒幕のようである。
◆アルバニアと「鎖国・無神論・ネズミ講」について(※濱崎氏のブログより引用)
アルバニアを理解する上で重要なキーワードが「鎖国・無神論・ネズミ講」です。まず日本は近世、鎖国していましたが現代史において鎖国といえばアルバニアというのが常識。その次ぐらいに北朝鮮とかミャンマーが来ると思いますが、冷戦期において「ザ・鎖国」といえばアルバニアというのが定説です。
極東の島国が二百年ぐらい前に諸外国と交流を絶ったのと違い、アルバニアが国際社会から消息を絶ったのは1960、1970年代と極めて最近。従ってその時の立ち振る舞いは極めてキワモノ的で、かなりそそられます。しかもアルバニアの位置はというと、世界文明の発祥地であるギリシャとローマの間。アドリア海に面した東西の交通の要衝で、本来鎖国の真逆のコスモポリタン的な背景を持つ国。
なおかつヨーロッパのバルカン半島に位置しながら、ボスニアと同様、オスマントルコ配下にあったので、アルバニア人はイスラム教徒。更に更にイリュリア語という、周辺のスラブ系民族とは異なるインド・ヨーロッパ語族であり、バスク語の様な孤立言語ほどミステリアスではないが、かなり不明なルーツを持つアルバニア語を話す人達。
そんなイスラム教徒が大半を占める国でありながら、共産主義時代に世界初の無神論国家を宣言し、宗教を禁止したトンデモっぽい国。
また今はモルドバに首位の座を奪われましたが、欧州最貧国でも有名。白人なのに大貧困。そして資本主義、市場経済に全く慣れていないので、1997年には国民の半分以上がねずみ講ににひっかかってしまい、国家が崩壊の危機に瀕し、全土が無政府状態に! 一挙手一投足が矛盾・ギャップ・違和感だらけです。
本書では、諸外国とのつながりを通して、アルバニアの輪郭を描いているところがポイントである。わからない国のことを、わからない国の事実で語られても、わからないの2乗になってしまう。諸外国との関係に着目することによって引かれた多数の補助線は、アルバニアをより身近なものに感じさせてくれる。
本書を読んでも、おそらくアルバニア行ってみたいとは思わないだろうし、旅行の際に持っていったとしても一切の役には立たないだろう。よくよく見ると、表紙に小さく「共産趣味」と書いてある。なるほど、これは趣味の本なのだ。”趣味としての共産主義”、面白すぎるっ!趣味の本なのだから、最初から最後までぶっ通しで読んでも、点が線になるようなこともない(と思う)。気になるところだけをTweetのように流しながら読んでいくのが、正しい読み方であろう。
ちなみに、本書のベースは大学の授業を元にして作られたものらしいのだが、国立大学の法人化で授業はなくなってしまったそうだ。それを趣味の本としてコンテンツにするなど、出版メディアもまだまだ捨てたものじゃない。”共産趣味”シリーズの続編も、非常に楽しみである。
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