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藤沢久美著「なぜ、川崎モデルは成功したのか?」...日本ならではのオープンイノベーションの姿が、ここにある

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藤沢久美著「なぜ、川崎モデルは成功したのか?」を読了しました。



 

この本と出会えて「よかった」と思いました。元気になるからです。

 

そもそも「川崎モデル」とは何でしょうか?本書のオビには、次のように書かれています。

---(以下、オビから引用)---

川崎市から始まる 政府・省庁も注目 新・中小企業支援。

異色公務員集団が大企業や金融機関を巻き込みものづくりの町・川崎市を元気にする!
話題のオープン・イノベーションの最前線!

戦略は、「密着」「おせっかい」「キャラバン隊」

---(以上、引用)----

本書では川崎モデルの様々な事例が紹介されています。たとえば、ある企業のケース。

墓石業を営むある会社は、川崎市からデザインコンペにエントリーすることを勧められました。そこでこの会社はガラス墓石の開発を検討しました。

そのことを知った川崎市のキャラバン隊の担当者は、ガラス工芸を手がける市内の事業者を紹介。ガラスを使った新たな墓石「シルエット」が誕生し、デザインコンペで優秀賞を受賞しました。(キャラバン隊とは、実際に企業に出向き、支援施策の情報を提供したり、連携先を紹介したりと、色々と世話をする川崎市のチームのことです)

さらにキャラバン隊は販売のために、市内のガラス工芸作家を集めて「メモリアルガラス研究会」を発足し、「かわさきガラスのお墓」が誕生、国の地域資源の認定を受け、この墓石の販売は拡大しています。

本書では、次のように書いています。

「社外の異分野の人々との協働の場を作り、これまでの常識を覆す新たな商品を生み出した。まさにオープンイノベーションだ」(p.210-211)

 

「役所がこんなことまでするのか!?」と驚かれる方もいるのではないでしょうか?この原動力が、熱い想いを持った、川崎市の公務員の方々です。

本書では、藤沢さんの優しい視線で、この川崎モデルに取り組まれてきた人たちの様子が丁寧に描かれています。

 

実はこの川崎モデル、最初から川崎市が組織全体で始めたものではありません。

1990年代中頃、中小企業についてまったくの門外漢だった若手中堅職員が、川崎市の中小企業が置かれた厳しい現実を知り、まず勉強会を立ち上げました。その熱い想いに共鳴した数名の職員が中小企業経営者の訪問や勉強会を繰り返して、徐々に育てていったものです。

現在の川崎市では考えられないことですが、当初は組織としての反対もありました。

たとえば、ものづくり企業の共同体である「ものづくり共和国」のために補助金を申請しようとすると、「共和国は会社ではないので、申請はまかりならん」。

川崎市のサイトからリンクを張ろうとすると「一企業だけにリンクを張るのは不公平なのでまかりならん」。

しかし今では、中小企業の支援をしているコーディネータは、川崎市だけでなく、国や都道府県の補助金までみつけて、申請支援をすることもあります。

もし「自分たちのミッションは、川崎市の中小企業の支援施策の活用推進だ」と考えると、ちょっとあり得ない行動かもしれません。

しかし「自分たちのミッションは、産業育成によるよりよき社会の実現だ」と考えると、至極まっとうな行動です。

自分たちのミッションを考え抜いて、メンバーで共有しているのです。

 

一人一人の熱い想いが大きな動きを生み出し、「川崎モデル」を作り上げている様子を、本書では様々な事例を通じて、活き活きと描いています。たとえば、このように書かれた一節があります。

「『官民連携』という言葉はどこでも耳にするが、連携の肝は人の交流。そして現場で一緒に本気で汗を流すこと。そして学びあうことだと、川崎市と関わる金融機関の皆さんが体験を通じて教えてくれた」(p.193-194)

コーディネーターには成功報酬はありませんが、中小企業支援のためなら徹夜も厭わないし、面倒な作業にも嫌な顔一つせずに取り組みます。その理由は、まさに「志」。コーディネーターのある一人は、このように語っています。

「喜んでもらえるのがうれしくて、喜んでもらえるために、いろいろとしてしまう」(p.72)

「働くとは、どういう意味なのか」ということを考えるきっかけをいただき、元気にさせてくれます。

 

「この本と出会えてよかった」と思った理由は、先の「読むと元気になる」ことに加えて、もう一つあります。

それは本書がアイデアの宝庫であること。現場で格闘してきた人たちならではの、ビジネスの知恵が散りばめられています。是非ご紹介したいのですが、ネタバレになってしまうので、当ブログでは割愛させていただきます。

  

本書には、日本ならではのオープンイノベーションの姿が描かれています。折りを見て、読み返していきたい本だと思いました。

 

藤沢さんは「社長Talk」という社長とのインタビューを、2006年7月14日の第一回放送以来毎週欠かさず続けておられます。→これまでのアーカイブ


また「藤沢久美の社長Talk News」というメルマガも、このたび配信200回を超えました。→登録はこちら


藤沢さんが積み重ねてこられた、この膨大な日々の蓄積があってこそ生まれた骨太な本なのだと実感します。


 

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