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市場調査レポートが出た時点で、既に市場が変化しているというジレンマ

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世の中で出回っている市場調査レポートの多くは、過去のデータに基づいて分析を行っています。

例えば、市場規模予測のほとんどが、現在の傾向が今後しばらくは続くという仮定の下、現在を延長して未来を予測しています。

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しかし、この方法は万能ではありません。例えば、CRM (Customer Relationship Management)ソリューション市場の大きな転換点だった2002年年初のCRM市場調査は、まさにこの典型でした。

私は2002年の初めからCRMソリューションのマーケティング・マネージャーを担当しました。AlternativeBlogのブロガーの方々もこの時期にCRMを担当していた方が多いようなので同じ体験をなさっていると思いますが、当時はまさに市場全体がホットな状態でした。

ある調査ではCRMを導入予定のお客様は全企業の20%を超え、またある調査では市場全体の成長を年率20-30%と見込んでいました。

しかしこの時期、実際には、お客様のCRMプロジェクト投資案件の多くが採算性の観点で見直しをされていました。

ある調査会社が2001年の中頃に行った調査では、CRM導入予定のお客様は6%に下がった、と報告されました。つまり半年前の20%と比べて1/3になった、ということです。

つまり、ハイプカーブでいうところの「幻滅期」に入ったのがこの時期で、実際、お客様のCRMに対する考え方が技術志向からよりビジネス志向に変わりました。 これは日・米でほぼ同時期に起こったようで、米国では"post technology era"とも言われていました。

導入予定のお客様が1/3に減る、ということは、営業の現場の感覚では、実案件は70%減どころではなく、ほとんど消滅したような状況になります。 実際、市場調査レポートの成長率を前提に経営計画を立てていたCRMソリューション各社は、どこも厳しい状況にあったようです。

その後、CRMはハイプカーブに沿って世の中に普及し、こちらに書きましたように10年をかけて着実に世の中に定着しつつあります。

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さて、マーケッターにとって市場調査レポートは、市場という地形を歩くための「地図」に相当します。

知らない場所を歩くためには、地図は必須です。

しかし最近の市場では、この地形が頻繁に変わっています。

それも、単に新しい建物が建っている、というレベルではありません。山(=目標)がなくなったり、谷(=障害)が出来ていたり、新しい海(=新市場)が広がっていたり、という地殻変動レベルの変動が起こっています。

しかも、現代はこれが極めて短い期間に発生しています。

例えてみると、地形を測り地図が出版されるまでの数ヶ月という短い期間に、地図を書き換えなければならないような地殻変動が頻繁に発生している、ということです。

それでは、市場調査レポートは無意味なのでしょうか?

私自身は、これは逆で、現代において市場調査レポートはますます重要性を増していると考えています。

世の中が激しく動いているからこそ、市場を客観的に把握し続けていくことが重要である、と思います。

まず、全ての市場が地殻変動を起こしているわけではありません。このような場合、市場調査レポートはまさに地図の役割を果たします。

また、地殻変動が起こった後でも、地殻変動前の地形の性質は現在の市場にもある程度残っています。

さらに、何故変化が起きたかを考察することで新しい洞察を得ることができ、アクションに結びつけることができます。従って、地殻変動前・後の地形を理解するためにも、継続性を持った市場の把握は極めて重要です。

市場調査レポートを分析して市場の変化を見極めるとともに、市場調査を鵜呑みにせずに必ず自分の目で実地検証することが必要なのではないでしょうか?

先のCRMの例でも、実際の営業の現場の様子から、2001年年末の時点から既に市場全体の中で何かが変わっていることは感覚的には感じられました。 一方で、この傾向を分析・反映した市場調査レポートが出されたのは1年近く経過した2002年後期でした。

しかし、実際のセールス活動でお客様の生の声を聞くことで個別案件毎の状況は分かりますし、さらに、セミナーでのお客様アンケート等でお客様の投資優先順位や重視事項の調査を行うことでお客様の考え方が変わってきていることは2002年前半にははっきりと把握できました。

つまり、その時点で最新の市場調査と、実地検証で得られた結果を突き合わせて仮説検証を行うことで、市場で何が起こっているかは把握できるのではないでしょうか?

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さらに、現代は自分自身で地殻変動を起こして地図を変えうることが可能な時代です。

田坂広志さんが「複雑系の経営」の「未来を『予測』するな、未来を『創造』せよ」という章で述べられているように、これからの時代に求められることは、明確なビジョンにもとづく「市場創造」です。

一人の小さな動きが市場全体に波及しうる、という、以前には起きにくかったことが容易に起こりうる社会です。非常にエキサイティングな時代になりました。

私達は、市場調査の重要性を理解した上で、その市場調査のみを付与条件として囚われることなく、さらにどのように市場を変えていくか、ということも考えていきたいですね。

 

関連リンク:未来は現在の直線上にはない

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