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シリコンバレーのサムライ・ウルフが、イノベーションについてつぶやきます。(時々吠えることもあります。)

IoTで「人・金・ノウハウ」の循環を

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 シリコンバレーは空前の好景気だ。グーグルやフェースブックで大金を手にした若者が高級車を乗り回し、高級レストランで食事をし、若いカップルが瀟洒な家を買う。私の妻が行く美容院では、若い客が「接ぎ毛」の料金一回1,600ドルを普通に払うそうだ。その若い女性はフェースブックに勤めているらしい。シリコンバレーでは90年代後半にドットコムバブルを経験した。インターネット(ドットコム)に関係するだけで企業価値が高くなるような幻想に囚われ、一攫千金を狙った金融機関が、事業の実態に関係なくドットコム銘柄の企業やベンチャーに手当たり次第資金を注入してバブルを作り出した。

 しかし、今回はバブルではない。確かに地価は高騰し、ベンチャー企業の未公開株の価格が高くなった。これは過熱かもしれないが、中心にしっかりとした産業革新ビジョンと事業の実態がある。産業革新は、IoT(Internet of Things; モノのインターネット)に向かっている。一言で言えばITとものづくりや既存産業との融合である。ソフトウェアやインターネットの最先端の世界で巨万の富を築いたシリコンバレーの企業や事業家の資金がIoTという既存産業の革新を牽引すべく、還流されつつある。

 グーグルとアップルの企業価値を合せると、日本のトップ企業10社の合計よりも大きい。このような資金力のある先進大手企業がさらに新しいベンチャー企業を次々と買収している。例えば、グーグルは今年(2014年)だけでも27 件のM&Aを実行しているが、そのうちの1/3はIoT関連であり、その総額は5,000億円を優に超える。このように、潤沢な富を先進企業や成功を次々と生む高度人材に循環させている。これはバブルではない。

 以前ご紹介した家庭用サーモスタットを開発するネストでは、3,200億円という資金がネストに流れた。これが高いか安いかの議論はあるだろうが、大事なのはこの資金がエネルギー管理という壮大なビジョンに裏付けされた製品とそれを生み出したトニー・ファデルという希有の人材に注入され、産業革新のための糧となっていることだ。今まではソフトウェア系の若者が闊歩してきたが、IoTの世界ではファデルのような経験の蓄積が必要なハードウェア系の「大人」の起業家も息を吹き返してくるだろう。ハードウェア領域での「人・金・ノウハウ」の循環が再び動き始めている。

 その循環の中に中国が入り込もうとしている。シリコンバレーで出たアイデアを深圳の工場で具現化するような仕組みが次々と動き始めている。一方、日本には格段に高い技術とノウハウがあるのに、このIoTの発展循環に入り込めていない。IoTでは、全体のビジネスモデル構築の発想とソフトウェア/ハードウェアの融合が鍵であり、旧来のものづくり信仰に囚われていてはIoTの産業創造の機会に関わることすらできない。シリコンバレーの「人・金・ノウハウ」の循環にしっかり入り込み、その循環を日本にも波及させるようなグローバルな取り組みが必要だ。この循環がベンチャーという草の根レベルで動き出せば、それが産業革新へのイノベーションが継続的に起こるきっかけとなるであろう。

(連載コラム「新風シリコンバレー」日経産業新聞 2014年9月2日)

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