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箱根駅伝をロジカルに考えよう ~棄権者がなぜ増えているのか?~

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皆さん、こんにちは。

2013年秋にスタートしたこのブログ「ロジカるつぼ」。昨年中はご愛読いただき有難うございました。
本年も楽しくロジカルなネタを提供しようと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。

さて、というわけで新春一発目のネタは「箱根駅伝」。

 


毎年さまざまなドラマが繰り広げられる箱根駅伝ですが、なんといっても、一番の見所は「華の2区」でしょう。

1区のように「よーいどん」ではなく、かといって後半戦ほどは順位が固定化していない2区。
そんな2区では相手を一気に抜き去る「ゴボウ抜き」が毎年注目されます。全10区の中でも非常に注目度が高いためにどの大学もエース級のランナーを投入してくることから「華の2区」と呼ばれるわけです。

 

そんな華の2区ですが、常に華々しいドラマだけが待ち受けているわけではありません。懸命に走る余り、怪我をしてしまったり、ハイペースゆえの貧血や脱水などでタスキをつなぐことができない途中棄権が多いことでも知られています。

2014年の箱根駅伝でも、そんな辛いドラマが起こってしまいました。山梨学院大学2年生、ケニアからの留学生でもあるオムワンバ選手が、右足を疲労骨折して無念のリタイアとなりました。

 
このような悲劇的なシーンを見て、「ああ、やっぱりタスキの重さは別格なんだなあ」と、正月ならではの感傷に耽るのも悪くはありません。しかし、個人的には、若くて将来のあるランナーたちが途中棄権に陥るのを見ていて、「本当にこれで良いんだろうか?」と思ってしまうところがあります。

 

事実、近年では箱根駅伝での棄権の頻度が高まっていることも問題視されています。今回のオムワンバ選手の棄権で、箱根駅伝での棄権は15回めですが、うち9回は21世紀に入ってからのものです。90年の歴史のある箱根駅伝ですが、そういう意味での危険性が高まっていることも否定しがたいところでしょう。


なぜ、棄権者が出るのか。それを減らすには、どうしたら良いのか。
今回は非常にシンプルな思考のツールである「なぜ?」を使って、今回のような途中棄権がなぜ起こってしまうのかを、一緒に考えてみたいと思います。


「なぜ?」を5回繰り返せ!

これは言うまでもなく、物事が起こる理由、原因、背景を考えるときに使うキーワードですが、トヨタ自動車では、この「なぜ?」を5回繰り返すと言われています。言ってみれば「原因の、そのまた原因の、そのまた・・・」をどんどん掘り下げるわけです。このように、なぜ?を5回繰り返すことによって、表面的な理由だけではなく、それが生じてしまう本質的な原因にたどり着くことができるというわけです。ロジカルな思考を身に着けるためには、この「なぜなぜ5回」はとっても基本的なトレーニングになります。

 

というわけで、お正月から、ロジカルにいきましょう!

 


1つ目のなぜ?は、「なぜ、オムワンバ選手は疲労骨折でリタイアしてしまったのか?」です。


疲労骨折が生じる理由について、wikipediaを元に推測してみます。

スポーツにおいては、跳躍や長時間の疾走などを繰り返し行うことで起こるとされ(後略)

なるほど、長時間の疾走を繰り返し・・・まさに陸上競技のトレーニングがそれに該当しますね。単に長時間走るだけでなく、それを繰り返し行うわけですから、オムワンバ選手の疲労骨折の原因は「オーバーワーク」ということができそうですね。

 


そこで、2つ目のなぜ?
「なぜ、オムワンバ選手はオーバーワークになってしまったのか?」です。

箱根駅伝に出場できる大学はどこも長距離に関しては一流のはずですから、理論的なトレーニングを実践しているだろうと想像できます。であるにも関わらずオーバーワークに陥ってしまうということは、オムワンバ選手にはそこまで走りこみをしてしまうだけのモチベーションがあっただろうと推測できるわけです。

オムワンバ選手は前年の大会でも2区の走者をつとめましたが、成績は同区間で2番目のタイムということで、いわゆる「区間賞」の受賞を逃していました。そのことが非常に悔しかったのか、オムワンバ選手は非常に高いモチベーションで大会に臨んでいたといわれています。

そのことがオムワンバ選手を必要以上のトレーニングに駆り立てていた可能性は十分にあります。

 


では、3つ目のなぜ?
「なぜ、オムワンバ選手はそこまでモチベーションが高かったのか?」

もちろん、学生ですから純粋に「皆のために!」という意識も強かっただろうと思います。駅伝で言われる、いわゆる「タスキの重さ」というのはその辺に由来するようです。

加えて、オムワンバ選手はケニアから留学してきている学生です。日本の陸上界で名を馳せるということは、自分自身や家族を含めた生活を陸上で成り立たせるために非常に重要な意味を持っています。

山梨学院大学といえば、古くからケニアの留学生を受け容れていることで知られていますが、その中でもオムワンバ選手は屈指のタイムを誇っていたそうです。そんな彼がさらに「箔」をつけるために、箱根駅伝で記録を打ち立てるべく、モチベーションを高揚させていたのは想像に難くありません。

2区での活躍はそれだけ大きな意味を持っているわけです。

 

では、4つ目のなぜ?
「なぜ、箱根駅伝での活躍はそれほどに大きな意味があるのだろうか?」

関東近郊の大学がこぞって箱根駅伝出場を狙っている理由の一つに「学生を集めるための広告手段として」というものがあります。大学や高校では、「販促活動」の一環として、スポーツに目をつけることが多いわけです。長距離競技は野球などの球技に比べれば投下資本が少なくてすみますから、新興大学が目を付けやすい側面が多分にあります。

ましてやオムワンバ選手が登場した2区は非常に目立つ区間です。2区は「まだタイム差が著しく離れる前の区間」であり、順位の変動が非常に激しい。また、時間帯的にも午前8時半~10時ごろという、正月をゆっくり迎えている家庭が朝食を摂る時間とも重複しており、視聴率も伸びやすいところだったりします。

 

箱根駅伝という、関東のお茶の間では非常に知名度の高いイベントで、何度も大学の名前が連呼される。もちろん優勝すればそれに越したことはないが、2区だけでも目だった活躍ができれば、学校の知名度を上げることができる・・・そういった思惑が、華の2区を作り上げているという指摘は少なくありません。

過去15回の棄権のうち、2区での棄権は3回。5区、10区と並んで最多となっています。
華の2区と呼ばれる区間に加え、往路、復路の最終区・・・注目度の高い区間に棄権者が多いということは、それだけその区間のランナーに強い重圧がかかっている証拠でもあります。

もちろん棄権の理由は色々ありえますが、その背景に大学の商業的な戦略が見え隠れすることは間違いないと思います。

 

では、最後のなぜ?
「なぜ、大学はソコまで商業的な努力を求められるのか?」

少子化が進んでいる日本では大学の数が多すぎるという指摘が最近増えてきました。裏を返せば、大学にとっては今まで以上に学生を熱心に集めなければいけないということがいえるわけです。統計的な根拠を示すと、日本の大学は現在およそ780程度。この数は平成元年以降徐々に増え続けた結果なのですが、いっぽうで、大学に入学できる人口を大まかに示す「18歳人口」は、平成6年をピークに減少の一途をたどっています。

大学と学生.png

大学が学生を集めるための工夫として、スポーツに焦点があたる背景には、このような事情があるのです。

最近の箱根駅伝を見ていて「あれ、聞いたことない大学だなぁ」という学校名を見つけたりしませんか?新興の大学がスポーツに力を入れていることがそういった点から垣間見えるのです。

 

 

・・・というわけで、まーやんなりに「なぜ?」を5回繰り返すと、オムワンバ選手が疲労骨折に追い込まれたのは、多分に大学の(あるいは陸上界の)商業的な思惑が背景にあると考えざるを得ず、さらにその背景として「少子化と大学数の飽和」という現象が見えてきます。

 
一番最初の「なぜ?」はオムワンバ選手にのみ焦点を当てましたが、実際にはこれは箱根駅伝全体に指摘できる問題だろうと思います。
箱根駅伝=販促手段ということを考えると、いち大学生に学校の将来を託すという発想が、時として非常に過酷な結果を学生に背負わせかねないか、時折恐ろしくなることがあります。 

今回怪我をしたオムワンバ選手が一日も早く快方に向かうことを、願って止みません。

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