オルタナティブ・ブログ > 公認会計士まーやんの「ロジカるつぼ」 >

コンサルティング業務に従事する公認会計士が、最新ニュースから電車の中吊り広告まで、ビジネスパーソンの雑談の手助けになるような「ロジカルネタ」を提供します。

スマホ版ドラクエからみる、スクエニ「勝利のシナリオ」

»
こんにちは、今回もお読みいただきありがとうございます。



スクウェア・エニックス社(スクエニ)から、注目のニュースリリースがありました。


株式会社スクウェア・エニックス(本社:東京都新宿区、代表取締役社長:松田 洋祐)は、国民的ロールプレイングゲームとしてご好評をいただいている「ドラゴンクエスト」シリーズのスマートフォン・タブレットでの展開と、スマートフォン・タブレット向け完全新作タイトル「ドラゴンクエストモンスターズ スーパーライト」の提供を決定いたしました。

◆ドラゴンクエストVIII 空と海と大地と呪われし姫君
2004年にPlayStationR2で発売されて以来、全世界で490万本以上の出荷本数を記録している「ドラゴンクエストVIII 空と海と大地と呪われし姫君」の広大で美しい世界での冒険が遂にスマートフォンでお楽しみいただけます。本作の他プラットフォームでの展開は、今回が初めてとなります。

 スマートフォンで展開予定の「ドラゴンクエスト」シリーズタイトルは、下記の通りです。
ドラゴンクエスト
ドラゴンクエストII 悪霊の神々
ドラゴンクエストIII そして伝説へ・・・
ドラゴンクエストIV 導かれし者たち 
ドラゴンクエストV 天空の花嫁
ドラゴンクエストVI 幻の大地 
ドラゴンクエストVII エデンの戦士たち
ドラゴンクエストVIII 空と海と大地と呪われし姫君

◆ドラゴンクエストモンスターズ スーパーライト
「ドラゴンクエストモンスターズ スーパーライト」は、「ドラゴンクエスト」でおなじみのモンスターを仲間にして育成する「ドラゴンクエストモンスターズ」の楽しさを、スマートフォンで手軽にお楽しみいただけるよう制作を進めている完全新作タイトルとなります。 

この冬を皮切りに、スマートフォンに「ドラゴンクエスト」シリーズが続々登場いたしますので、ぜひご注目ください。 



大人気ゲームシリーズ「ドラゴンクエスト」がスマートフォンで楽しめるようになったと言うことで、ファンの方々にとっては非常に楽しみなニュースとなりました。



スクエニの2大RPGと言えば今回発表されたドラゴンクエスト(DQ)のほか、ファイナルファンタジー(FF)があります。FFについては既にスマートフォンでもゲームが販売されていたものの、DQシリーズは今までなかなか発売が発表されずにいました。

今回、DQシリーズのスマホアプリ化にはいったいどんな狙いがあるのでしょうか。「過去の遺産の食い潰し」という厳しい指摘も多いのですが、まずはニュートラルに、スクエニがどのような舵取りをしようとしているのかを、同社の資料から分析してみたいと思います。




  • ゲーム機としてのスマホの「伸び」

その昔、ドラクエは「ファミコン」のソフトでした。私の少年時代はまさにこの「ファミコン」によって彩られていたといっても、過言ではないと思います。

言うまでもなく、昔のゲーム機は「本体=ハード」と「カセット=ソフト」の2つがそろって初めて成立するものでした。・・・いや、実際のところ、ファミコンがスーファミ、プレステ、WiiやDSに取って代わられるようになっても、
「ハード×ソフト」でビジネスが成り立っているのは、今も昔も同じ話です。

そんな中でちょっとした変化もあります。それが通信機器の普及でした。PC、携帯、スマホといった通信機器が当たり前の存在になって、もはや「ゲーム専用機」でなくても、十分にゲームを楽しめるようになってきたわけです。

slide08.jpg
で、スクエニが注目しているのがスマホの伸びです。画像は同社の決算説明会資料から抜粋したものですが、将来的にはスマホがかなりのシェアを占める、というシミュレーションを、どうやら同社ではしています。


こういったスマートフォンのゲーム市場に、いち早く入り込むにはどうするか。

新しくゲームを開発することももちろん大事ですが、もっと早い方法が「既存のソフトをスマートフォンで遊べるようにして、市場に投入する」こと。今回発表された、ドラクエシリーズを今冬から投入すると言う判断はここから来ているものと推察されます。









  • 「金のなる木」から「問題児」へ

現時点で、スクエニが非常に良い状態だなぁと思えるのが、「DQ」「FF」といった看板シリーズが、今なお継続的に利益を生み続けていることです。ゲーム業界が尻すぼみの中で、これら2シリーズは圧倒的なマーケットシェアを誇っています。

このような事業を「金のなる木」と呼びます。これはボストン・コンサルティング・グループと言うコンサルティング会社が考案した「プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(PPM)」という考え方に基づく分類です。縦軸に市場の成長性、横軸にマーケットシェアをとったとき「成長性が低く・シェアが高い」組み合わせを、「金のなる木」と呼ぶのです。

プレゼンテーション1.jpg
既に土壌が固まった市場で、大きなシェアを占めている状態と言うのは、いわば大地主。継続的に利益を得ることが出来るわけです。しかし地主といっても永久に安泰とは限りません。土壌が痩せていったり、ほかに魅力的な土地が見つかれば、そちらに民が移住してしまう可能性があります。

そこで、新しい土地=新規事業を開拓する必要があるわけです。

先述の通り、スマホはゲーム機として高い伸びが期待されてますから「市場の成長性」が高い状態にあります。いっぽう、これから拡大していく市場ではまだマーケットシェアはつかみきれない部分があるので、「成長性が高く、シェアが低い」スマホゲーム事業は、「問題児」と言うことができます。シェアが低い問題児のままでは、高い利益をたたき出すことが出来ませんので、スクエニではこの部分でしっかりとシェアを獲得しなければなりません。シェアの獲得に必要不可欠なのが・・・そう、「新たな楽しいゲームを開発すること」これに尽きます。

DQやFFのような定番ゲームタイトルから得られる利益をもとに、新しいゲームを開発すること。これこそがスクエニにとっての「勝利のシナリオ」ということになります。





  • 意外と効果的な手法だが、これが最後かも。

スクエニからすでに販売されているFFのシリーズのアプリの価格は、だいたい1,500円程度です。ドラクエの8タイトルを1,500円で、100万ダウンロードさせれば、単純売上高は120億円。ここからアップル社あたりが手数料をかすめとっていきますから、実際の収益は80億程度となりそうです。

年間1200億円以上の売上を挙げているスクエニにとって、80億と言う数字はたいしたことなく見えもします。しかし、ほとんど開発費のかからないドラクエシリーズからの売上は、ギャンブル性の高い新タイトルのゲームよりもずっと利益率が高いため、スクエニにとっては見かけ以上に強いインパクトのある数字になります。

問題は、果たしてこの手法がいつまで続くのか?ということ。

過去の遺産の食い潰し、という批判の多い旧タイトルの使いまわし。私の個人的な意見では、それが「嬉しい」という側面もあります。昔夢中になったゲームをもう一度プレイしたい・・・という欲求は非常に根強いものがあります。その欲求に、手元にあるスマホが答えてくれる。大人ですから1,500円くらいなら、まあ買っても良いか・・・となる。そういう意味ではこの戦略は、ニーズをしっかり把握してきたと分析することも出来そうです。

しかし、ドラクエは今までもリメイク版をたびたび発売してきました。例えばドラクエの1作目は、ファミコン・MSX・スーファミ・ゲームボーイ・Wiiとすでに4つのゲーム機で発売されており、実はガラケーでも遊ぶことができていました。スマホ版ですでに7代目ということになります。

スマホという、生活密着型の端末にまでドラクエが行き着いてしまった。さて、その次はいったい何に移植するのか・・・?想像しても、私には答えが見つかりません。スマホに代わる新しいデバイスがやってくるのか?そろそろこのやり方も限界なのかも?


Comment(0)