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八百長は何故起こるのか?サッカー界における「不正のトライアングル」 1/2

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こんにちは、今回もお読みいただきありがとうございます。


さて、7月の8日と9日に、ICPO(国際刑事警察機構)が主催するある会議が開かれました。その議題は「サッカー界における八百長の防止対策」。八百長といえば、ちょっと前に大相撲が話題を呼びましたが、どうやらサッカー界の八百長の規模は大相撲の比ではないようです。

ユーロポールの報告によると、2008年から2011年までに行われたサッカーの試合のうち、実に680試合で八百長があったとされています。


サッカーの試合で、何故八百長が起こるのか。今回は八百長という「不正」のメカニズムを分析してみたいと思います。



企業の監査などに携わるとき、私たち公認会計士は「不正のトライアングル」というフレームワークを意識します。不正のトライアングルとは、不正が起こるときに必ず存在するといわれている3つの要素を表したもので、その要素は以下のとおりです。

  1. 動機・プレッシャー
    不正を行おうという気持ちにさせるような環境、要素などのことです。たとえば過度のノルマを課されている営業マンは、押し込み販売などの不正を行うモチベーションが高いといわれています。不正に対する「報酬」も動機のひとつです。インサイダー取引などは、もしバレずに行うことができれば巨額の利益を得ることができます。

  2. 機会
    簡単に言えば「その気になれば、不正ができる環境」のことです。たとえば、誰もいないコンビニで、レジが開いたままになっていたら・・・盗んでしまおうと思う人がいても不思議ではありません。また、たとえばコンビニの店長であれば、店員のシフトを工夫してしまえばその「誰もいないコンビニ」を作り出すこともできます。権限のある立場もまた、機会を作り出すことがあるわけです。

  3. 正当化
    不正という「悪い行為」をごまかすための気持ちです。未成年の飲酒や喫煙の多くが「誰でもやっているから」という気持ちで行われています。

今回とりあげているサッカー界の八百長について、この不正のトライアングルへの当てはめをしてみたいと思います。

そもそも、八百長は誰が行うものか?ということから整理してみましょう。

中にはチーム全体でぐるになって行われ、「79対0」(!)というスコアの試合を作った・・・というような、誰が見ても分かるようなあからさまな八百長もあるようですが、ほとんどの場合は、そうとは分からないように行われているはずです。そもそも、対戦するチーム同士はお互いが「勝利」を目指していて利害が真正面から対立しているので、結託して八百長を行うケースは、一部の消化試合を除いては存在しづらいと思われます。

だとしたら、サッカーの試合中、ゲームを操作できる余地があるのは・・・ホームチームでも、アウェイチームでもなく・・・そう、審判なんです。サッカーの八百長というのは、ほとんどが審判たちを巻き込んで行われています。


ということで、今回はこの審判に不正のトライアングルを当てはめてみましょう。


  1. 「動機・プレッシャー」
    多くの場合、審判は「1試合あたり12万円」という形で報酬を受け取っています。12万円というのはJ1リーグの主審の場合ですが、そもそも年間での試合数が限られている中でのこの報酬水準は決して高いものとはいえません。日本ですらこうですから、他の国ではもっと過酷な条件下におかれているかと思われます。

    そんな審判に対して「ホームに勝たせるように工夫して欲しい」と100万円程度の報酬で働きかけたら、なびいてしまうこともあるだろうと思います。実際、八百長に加担したとして摘発される審判の多くが途上国の人だったりします。

  2. 「機会」
    審判が八百長に加担する方法は色々とあります。ペナルティキックとなるようなファウルを厳しく認定したり、警告や退場を特定のチームに偏らせたり、ロスタイムを操作したり・・・。あまりにあからさまだと事後的に無効試合になることもあります(※)が、そうならない範囲でスコアメイクすることも、まったくの不可能というわけでもなさそうです。

    日本代表の試合でも、思わず「おい、今のファウルだろ、PKだろ!?」と叫んでしまうサッカーファンの方はいると思います(サッカー解説者ですら冷静さを失うほどです(笑))それほどまでに、審判の判定というのは非常に微妙で、繊細なものだということです。

    ※ちなみに、実際には「無効試合になってもいいから、八百長をしてしまう」こともありえます。詳しくは次回の記事で。

  3. 「正当化」
    不正を正当化する最もポピュラーな言い訳が「ほかの人もやっている」です。そもそも八百長が起こりやすいサッカーという競技自体が、この正当化を助長しているという指摘も存在します。だからこそ、FIFAは事後的に不審なゲームの検証をしたり、あるいは背後につながっている闇組織を根絶するためにICPOと手を組んだりしているわけです。

    また、金銭的に苦しい環境にある審判であれば「家族を養うため」といった切実な理由もどこかにはあるのかもしれません。

サッカー界から八百長を追放するためのアイデアを考えるときには、この不正のトライアングルを意識することが必要です。

たとえば、動機・プレッシャーを排除するためには「審判員の待遇を改善する」といった発想がすぐに浮かんできます。機会を排除するのであれば、たとえばロスタイム方式ではなく、プレイが停止した場合には時計を止めるという方式できっかり90分を測定することもできるだろうと思います。不正の正当化を根絶するのは難しいのですが、地道な啓蒙活動や、待遇改善を通じた不正へのモチベーションの抑制をしていくことが考えられます。


サッカーの八百長に限らず、世の中で起こっている不正は、ほぼ例外なく不正のトライアングルが当てはまります。八百長つながりで言えば、大相撲もそうです。あるいは企業の粉飾やインサイダー取引、ちょっと古いネタですが食品の産地偽装などもそうです。

不正に関するニュースを目にしたときは、ぜひ「トライアングル」を思い出してみてください。



さて、次回はもう少しサッカー界の八百長を掘り下げてみたいと思います。
審判たちに八百長を働きかける「黒幕」・・・。ちょっと怖い話になるかもしれません。
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