初音ミクJASRAC問題の「雨降って地固まる」について
初音ミクJASRAC問題についてコメントしようといろいろ調べていましたが(はてなダイアリーでも指名で振られてましたし)、結局、両社が建設的な形で和解ということで結果オーライとなりましたね。
JASRACは著作隣接権ではなく著作権を管理する団体なので、作品データベース(J-WID)上のアーティスト名はinformation-onlyであり何らの権利が発生するものでもありません(たとえば、「初音ミクsings」でJASRAC管理曲を配信するたびに「栗原潔featuring初音ミク」とアーティスト名が登録されるのかというとそんなことはありません)。また、ここでのアーティスト名はおそらくは商標的使用ではないので、商標権に基づいて差し止めはできないと思います。ただし、どう転んでも、初音ミクにはキャラクターとしての財産的価値がありますし、クリプトン社はそれなりの投資を行ってきているので、法文上にはなくとも、クリプトン社にはキャラクターとしての初音ミクをコントロールできる権利(いわゆる、キャラクター権)があると考えてもよいと思います(※)。
...というようなことを書いても蒸し返しになるだけなのでやめときます(と言いつつ書いてますが)。
まあ、いずれにせよ、両社の和解内容もきわめて納得のいくものであり良かったです。中でも重要なポイントは以下かもしれません。
5.音楽著作権の処理に関しては、現在のシステム・ルールがネット時代に即応できて いない不十分な部分が存在するという認識で一致し、時代に即応した新しいシステ ム・ルールを構築できないか両社で協力し検討してゆきます。
具体的には、作者さんが着うたや通信カラオケなどの営利事業からある程度の報酬を得つつ、ネットでの二次利用が自由にできるようなスキームが必要だと思います。これは、別に著作権法改正とかの大げさな話ではなく、著作権管理団体が信託(あるいは委任)の規定を変えれば対応できる話だと思います。
ドワンゴ等が中心となって新たなネット専門の著作権管理団体を作ってもよいかもしれませんが、イーライセンスあたりが対応してくれるかもしれません。JASRACだって対応しないとは言えません。パブリックドメインとして勝手に通信カラオケ等をやられるとJASRACには一銭も入りませんが、作者さんが営利事業に対してのみ報酬請求権を行使できる仕組みにすれば、ある程度は手数料を得られるからです。
そういうスキームができれば、CC非営利的なモデルと伝統的著作権制度のモデルをネットコンテンツの世界でうまく混在させることができるかもしれません。
以前のエントリーで「Perfumeが日本の著作権制度の転機となるかも」という「妄想」について書きましたが、Perfumeを初音ミクに置き換えれば、本当にその通りになるかもしれません。
※ ついでに書いておきますがひこにゃん事件の時に、ひこにゃんの絵の原作者はキャラクター権を持ってるみたいな意見が聞かれましたが、それはないと思います。原作者はひこにゃんを有名にするために多大な投資をしたわけでもないですし、そもそも、ひこにゃんという名称自体が彦根市が公募で付けたものです。キャラクター権というのは、著作権のように創作すれば自動的に発生するものではなく、しかるべき投資が行われて財産的価値が生まれたキャラクターへのフリーライドを防ぐために便宜上考えられた権利です。