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いちばん恥ずかしい誤訳のパターンとは?

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私が翻訳に興味を持ったきっかけのひとつは、大昔に読んだ翻訳家の別宮貞則氏の「誤訳 珍訳 欠陥翻訳」だったと思います。割と大御所と呼ばれている翻訳家でもとんでもない誤訳をするということ、その分野の研究者としては第一人者であっても翻訳は結構ひどいことが多いこと、難解な翻訳を苦労して読んでたら実は原文はそんなに難しくはなかったなんてことも結構あること、等々を知りました。

他人の変な翻訳をネタにするのはなかなか面白いですし、勉強にもなるのですが、じゃあお前の翻訳には誤訳はないのかと言われてしまうとちょっと厳しいものがあります。単行本の翻訳になると、どうしてもケアレスミスはなくせませんし、〆切が迫ってくるとだんだん日本語の文章が荒れてくるというものあります。拙訳の「ライフサイクルイノベーション」にしても、自分で読み返してみてあーこの辺ちょっと雑だったなーと反省するところもあります。別宮貞則氏本人がやった翻訳でもミスがあるではないかと主張する同業者の方もいらっしゃるようです。翻訳におけるミスを完全に排除できないというのは、どんなソフトウェア開発の第一人者であっても、100%バグフリーのプログラムを作ることはできないようなものだと思います。

と言いつつ、絶対やってはいけないパターンの翻訳ミスというのがあると思います。第一は、翻訳として合ってるか以前の問題として、日本語としての体をなしていないというパターンです。別宮氏の著作によると、国富論の名訳と呼ばれている訳はこんな感じだそうです(なお、今、本が手物にないのでこの例は翻訳blog様より引用しています)。

Unless they yield him this profit, therefore, they do not repay what they may very properly be said to have really cost him.

したがってこれらの財貨が、かれにたいしてこの利潤をうまぬかぎり、それらがじっさいにかれにとってかかったと、まったく正当にいわれうるものを、それらはかれにはらいもどさないのである。

別宮氏の訳は

これだけの利益を生まなければ、もどってくる金は、実際にかかったとまちがいなく言えるだけの額にもみたないことになる

ということで、原文は別にそんなに難しいことを言っているのではないことがわかります。前の訳文のような文章を一生懸命解読するくらいなら、英文を直接読んだ方が早いような気がします。

もうひとつのやってはいけないパターンは原文の読み違えです。別宮氏の本でも、確か、"depictive"を"detective"と読み間違えたために、全然文脈に関係なく、「まるで探偵のような~」なんていうとんでもない訳が出てきてたケースがありました(ただし、これは元原稿が誤植だったりすることもあり得るので、必ずしも訳者の責任ではないかもしれません)。

これで思い出したのが、(ちょっとマイナーなネタなんですが)、Windows環境でDirectXでサウンドカードのポートを選ぶときに、ポート名の後に「(列挙済み)」と表示されることがあるのですが、これはどういう意味なのかというお話しです。どうも、サウンドカードがDirectXをネイティブでサポートしておらず(ASIOで動作するプロ向けのカードにはそういうのが多い)エミューレーションでのみサポートしているカードで(列挙済み)と表示されるようです。これはひょっとして、emulated→エミュレーテッド→エニュミレーテッド→enumerated→列挙済み、という壮大な読み間違いなのではと思ってしまいましたが、どうなんでしょうか?

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