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デザイン、ブランド、マーケティング……。フェラーリから老舗の和菓子屋さんまで、わざわざ顧客が買いに来るビジネスには、必ず意図や戦略があります。世の中のモノやコトを眺めながら、その意図や戦略を勝手に遡ってみる、そんな頭の体操みたいなことを書いてみましょうか。

市場って何? ~見方・立ち位置で市場の意味も違うかも~

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市場を意識して、モノやサービスを『商品』として提供する。このような表現は、今や大企業のみならず中小企業でも違和感がないものでしょう。

『市場』という言葉は、ビジネスパースンであれば聞いたことがない、あるいは耳にしない日はないくらい、ごく普通の存在の言葉です。そんな『市場』ですが、モノでもサービスでも、企画して世の中に送り出す側として行動する人にとっては、語られるその時の文脈によって、2つの面があることは意識していた方がいいなぁと思うのですよ。

それはメディアなどで語られる『市場』と、商品としてモノやサービスを提供しようとしている企業が目指す『市場』は異なる、ということ。

マーケティングリサーチとか、メディアなどで「A社の製品Xは、市場で高い評価と支持を得て~」といった際に語られる『市場』は、過去の結果を表しているに過ぎず、企業が目指す方向を示している訳ではありません。

勿論こういった情報を軽視しても良いと思っている、という話しではなく、モノやサービスの送り手は、これらが表す『市場』の様子だけを情報源にしても仕方がないという意味です。


◆市場はどこにあるのか

では、企業が目指すべき『市場』はどこにあるのか?モノやサービスの送り手である企業にとっての受け手は、言うまでもなく顧客です。顧客が購入や利用の意志決定をすることで、企業のモノやサービスは受け入れられます。企業は顧客に購入してもらわなければ事業活動が成り立たない、というシンプルなことに立ち返れば、『市場』とは顧客アタマ(意識)の中(での意志決定)にあるということに行き当たります。

では、その意志決定に影響を及ぼすのは何か?自分自身が受け手の生活者・消費者として振る舞うときのことを考えてみると思い当たるかもしれませんが、(厄介なことに)そこには理屈や理性的・合理的な要素のみならず、感情や気分といったものの存在を無視することはできません。

これは一見B2Cビジネスに限った話しのように見えるかもしれません。しかし、B2Bビジネスでも関わる個人の「役者」が増えるだけで、根本部分では同じです。窓口担当者、利用者、意志決定者、それぞれの個人の共感を得ることが、送り手側のモノやサービスを受け入れてもらう意志決定へのカギとなるのですから。

そうやってなされた個人の意志決定の集合体が、結果としての市場。だから、マーケティングリサーチやメディアで語られる『市場』と自社の『市場』は同じではないし、注目すべきところも異なるはず。


モノやサービスなど商品の送り手(企業)側がアプローチしたい『市場』が顧客の意識の中にあるのであれば、自社にとっての顧客を良く知る必要があります。狙うべきことをさらに絞っていくと、それは顧客が購入への意志決定をするために、気持ちや感情に働き掛けることを意識する必要があるというところへつながっています。なので、マーケティングリサーチやユーザーインタビューから得られる『市場』だけからニーズを考えるのは危険と考える訳です。

ユーザー調査などから得られるニーズは、聞かれたその瞬間に思い当たる、不満や不安、好き・嫌いに留まる場合が少なくありません。自分自身を振り返ってみても、我々は「嫌いな理由」や「今の欲しいものやニーズ」は口にできるけれど、未来の時点でのライフスタイルの中で欲しいものや、今は無いけれどあると嬉しいもののような、潜在下にあるものは案外答えられませんしね。

だから、仮にその調査で得られたニーズを全て満たした商品を提供したとしても、顧客の購入への『気持ち』を動かすとは限りません。不満は解消されたかもしれないけれど、「積極的に購入するだけの理由」には水準が低いということが起きえるからです。

送り手側は顧客の様子から洞察し、「予想外」や「期待以上」の驚きだったり、嬉しいことなどの「何か」を作り提示することを常に意識する必要がありますね。


◆「期待以上の何か」を作るために

かつては、そういった生活者にとっての「予想外」や「期待以上」をつくりだすエンジンは、新しい技術だったりしたのでしょう。新しい技術から革新的ともいえる新しいモノが生れ、生活者の感情に働きかけることができたと。いわゆる【イノベーション=技術革新】という時代。モノに対して不足感があった(つくれた)時代は、それがある面正解だったのだと思います。

しかし、モノと情報が(あるいはどちらかが)溢れかえっている環境では、単独の新技術や技術革新による驚きは、瞬間芸のような刺激になってしまった様にも感じます。その驚き以上に「で、その先はどうなるの?」という方へ、今の我々の意識は向いています。【イノベーション=意味の創造】と最近は表現されることも多くなったことにも納得がいきますね。

モノやサービスの作り手(送り手)には、受け手である顧客や生活者へ、新しい意味を創造し提示するということと、その時に最適な技術(それは、革新的な新技術かもしれないし、既存の"枯れた"技術かもしれません)を選択し組み合わせていくための、目利き力のようなものが求められているのでしょう。

市場というボンヤリとしたものから、顧客(生活者)にとっての意味の創造ということに視点を動かしていくと、ターゲットユーザーという言葉も浮かびます。

このターゲットユーザーという言葉も市場と並び、よく眼にする単語です。顧客にとっての「期待以上の何か」を作る視点で市場を考える上では、極端な話し、顧客となる『**さん』を特定し、その人のベネフィットへ注目していくくらいでも良いのです。

ペルソナなど専門的な手法はもありますが、そこまで本格的に取組むところまでいかなくても、例えば余力の少ない中小企業でも取り組める方法はあります。まずは顧客(生活者)のことを動詞で考えてみることなどは、そのポイントのひとつはではないかと思っています。もしくは、顧客の経験のための舞台としての環境をどのように用意するか、という言い方もできそうです。

顧客経験と表現すると、サービス業の話しのように感じるかもしれませんが、自社が提供している商品が、形のあるモノであったとしても顧客経験から、商品戦略やマーケティング戦略を組み立てることを試してみると、何か新しい視野が開けてくる、かもしれませんよ。

もし、その進め方に戸惑うようでしたら・・・そのための研修やプロジェクトを通した人材育成は色々ご提案できますので、お気軽にご相談ください。と宣伝してみようかな(笑)



林田 浩一

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