人やチームは自律的に成長すべきものであり育てることはできない!ということについての私の考え
ある講義で、アジャイル開発のコーチを長年されているか方から、「自律した個人やチーム」を育てることの大切さについて、ご自身の経験をご紹介いただきました。これについて、受講者の方から次のようなご質問を頂きました。
「アジャイル開発の現場では、人やチームは自律的に成長すべきものです。育てるという考え方は、アジャイル開発に於いては、違う気がします。」
この方はきっとアジャイル開発の現場を経験され、苦労や工夫をされてきた方なのかも知れません。だから、「育てる」ということの難しさを実感としてお持ちになられているのでしょう。だからこその質問であるように感じます。
確かに人は育つものであり、育てられるものではないというのはよく言われていることです。私もこのご意見がまったく間違っているとは思いません。ただ、「育てる」という言葉についての解釈というか、理解の範囲が狭い気がしました。そこで私は次のように答えました。
私の回答:
「開発チームは自律的に成長すべきものです」とのご意見ですが、これは理想と現実が整理されていないように感じます。
チームであれ、個人であれ、「自律的に成長するもの」との考えは、私は幻想だと思います。正確に言えば、「だれもが自律的に成長する潜在力を持っているが、放置や放任では自律的な成長は容易なことではない」と言うことです。
私は30年近く人材育成に関わり、また、3人の子どもを育てました。そんな経験から申し上げられることは、「だれもが自律的に成長する潜在力を持っている」ことを信じること、そして、その潜在力を発揮できる場や機会を与え、方向を示すことができなければ、成長は運まかせであり、自助努力のみに頼ることになってしまうということです。
「育てる」というのは、「場や機会を与え、方向を示す」ことに他なりません。また、そのことが、いかに自分や周りを幸せにするかに気付かせ、「自律的に成長する潜在力」をモチベーションとともに引き出してあげることこそ、「育てる」という行為であると私は思います。全ての人に潜在力があっても、それ自分で気付き、自助努力できる人ばかりではありません。だから、「育てる」必要があるのだと思います。「正しい(?)考えや知識を相手に与えて従わせる」ことが、「育てる」ことではありません。むしろ、そのようなことをしてしまうと、潜在力は萎縮し、自ら育つ力を奪ってしまいます。
「育てるという考え方は、アジャイル開発に於いては、違う気がします」とのご意見ですが、ほんとうにそうでしょうか。私もいろいろなアジャイル開発チームを見てきました。優秀なチームは、例外なく、上記の意味で、しっかりと育てられています。
もちろん育つのは自分であり、自分の意志で努力し、苦労しなければ自分を育てることはできません。なにもしなくても「気がついたら育っていた」と言うことはありません(笑)。
ただ、そういう努力や苦労に意義を見出し、それを惜しまないための「場や機会を与え、方向を示す」ことでが「育てる」ということであり、そこがうまくできているチームは"例外なく"優秀です。
「場や機会を与え、方向」を示しても「育てる」ことができないことがあります。それは、「育てる」側の努力や知恵が足りないのです。だからこそ、誰もが持っている「自律的に成長する潜在力」を信じ、たゆまず改善や工夫をこらすことが、「育てる」側の使命だろうと私は思います。コーチや講師というのはそういう仕事です。
彼らも不完全な人間ですから、失敗もあります。それでも失敗を繰り返しながらもそれを改善し、また失敗してもさらに改善して工夫をする。それを継続することが「育てる」ということではないでしょうか。これは、アジャイルの精神そのもののようにも思います。子を持つ親もその点は同じなのではないでしょうか。
さて、皆さんは、この考えをどのように受け止められますか。正解は、自分で創らなくてはなりません。このような答えをお伝えることもまた「場や機会を与え、方向」を提供することだと思います。ぜひ、自分の答えを考えてみてください。
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