オルタナティブ・ブログ > ITソリューション塾 >

最新ITトレンドとビジネス戦略をわかりやすくお伝えします!

いまの業績はほんとうに自分たちの努力の賜なのか?

»

多くのSI事業者の業績は好調だ。社員の努力の賜だと経営者は感謝の言葉を惜しまない。社員もまたこの現実に満足し、働きがいを感じている。

ひねくれているかもしれないが、これはうたたかの夢かもしれない。

例えば、この業績好調は何がもたらした結果だろうか。コロナ禍によりデジタルへの世間の関心が高まり、既存顧客の投資意欲が高まっているからではないのか。それが証拠に、次代につながる新しい顧客や新しいビジネスが、どれだけいま業績に寄与しているかを冷静に見つめてみるべきだろう。

日米の金利差の拡大や米中の貿易戦争が、経済の不確実性を高めている。米国経済が失速すれば、日本もまた影響を免れない。そうなればITへの投資意欲も減退する。

job_it_dokata.png

社員の稼働率を考えてみるといい。稼働率は100%に近く、いまの好業績がそんな彼らの働きに依存しているとすれば、一層の売上を望むのであれば、社員を増やす必要がある。しかし、それは容易なことではない。

強気で社員を増やしても景気が後退すればそれは利益を圧迫するリスク要因を増やすことになる。そこを強気で乗り越えて増員しようとしても、容易には"優秀な人材"は集まらない。

また、人に依存した工数ビジネスで稼働率が高いというのは、将来への足かせになるかもしれない。なぜなら、新しい取り組みに人材をシフトできないからだ。現場から人を外せば、売上や利益の減少に直結する。特に優秀な人材は稼ぎ頭でもあるので益々難しい。そういう人材にこそ、新しい取り組みにシフトすべきなのだが、それができない。

このような状況は、もうひとつの大きな課題を投げかける。それは、「時代遅れ」になることだ。稼働率が高いために新しいことに取り組めない、新しいことに取り組まなければ、これから求められるテクノロジーやノウハウを取り込むことができなくなる。

DX/デジタル・トランスフォーメーション」という言葉が、世間を賑わし、アジャイル開発、DevOps、クラウドが注目され、マイクロサービスやコンテナ、サーバーレスが新しい常識になろうとも、既存のシステムの延長線上×情報システム部門の範疇でしか仕事を受けていないとすれば、例え仕事があったとしても、そのような時代の先端に関わることはないだろう。AIはこのようなテクノロジーを土台に実現しているが、いくら世間が騒いでも、この意味が理解できなければ仕事の相談はうけられないだろう。

そんなものはバズワードで、実需はないと言う人がいる。なぜなら、自分たちに相談されることがないからだと言う。

なんと残念なことだろう。それは、その人が、あるいはその会社が、期待されていないから相談されないだけのことだ。こういう自分たちの姿が、客観的に捉えられていないことが「時代遅れ」になっていることの査証かもしれない。

新しいことに果敢に取り組み、お客様から相談が絶えない企業は多い。そして、旧態依然としたSI事業者から、自分のいる会社の未来や自分の成長を不安に思い転職してくる優秀な人材が後を絶たないとの話しも聞く。この現実を考えれば、「相談されない」ということが、どれほど危機的な状況であるのかが理解できるだろう。

DXによって、新しいIT需要が喚起され、仕事が増えると期待するのは拙速だ。これからの新しい需要は先に掲げたテクノロジーが土台にあり、新しい時代の方法論が前提となるだろう。その需要に応えられるだろうか。IT人材が不足するとは、絶対数の不足ばかりではなく、スキルのアンマッチも原因だ。

いや、うちも既に取り組んでいるという企業もあるだろう。しかし、アジャイル開発を低コストで短期間にシステムを開発する手法であると理解し、お客様の要望に合わせることや品質を担保することが難しいと嘆いているとすれば、それはまっとうなアジャイル開発に取り組んでいるとは言いがたい。DevOpsは運用の自動化である、クラウドは調達手段を迅速化する手段であると言う程度にしか理解していないとすれば、あまりにも非常識だ。これでは、お客様が未来を託する次のシステムを相談できないだろう。

「難しいのは、新しい考えになじむことではなく、古い考えから抜け出すことだ。」

経済学者ケインズのこの言葉にあるように、これが難しい。自らの世界観を改めるよりも、現実を調整し自分たちに都合のいいように変えてしまうほうが楽だからだ。特に、見かけ上の調子がいいときはなおのこと難しい。

時代の節目というのは、いつの時代も後付けの解釈に過ぎない。いままさにその現場に立つ当事者には、なかなか見えないし、見たくもない。ケインズの言葉は、そんな人の世の常への戒めである。

現実に真摯に向き合うべきだろう。世の中は急速に変わってしまう。気がついたときに周回遅れ、いや場外に立たされていないためにできることは、言い尽くされている。後は、実行するかどうかだ。

【図解】コレ一枚でわかる最新ITトレンド 改装新訂4版

【図解】コレ一枚でわかる最新ITトレンド 改装新訂4版

2022年10月3日紙版発売
2022年9月30日電子版発売
斎藤昌義 著
A5判/384ページ
定価2,200円(本体2,000円+税10%)
ISBN 978-4-297-13054-1

目次

  • 第1章 コロナ禍が加速した社会の変化とITトレンド
  • 第2章 最新のITトレンドを理解するためのデジタルとITの基本
  • 第3章 ビジネスに変革を迫るデジタル・トランスフォーメーション
  • 第4章 DXを支えるITインフラストラクチャー
  • 第5章 コンピューターの使い方の新しい常識となったクラウド・コンピューティング
  • 第6章 デジタル前提の社会に適応するためのサイバー・セキュリティ
  • 第7章 あらゆるものごとやできごとをデータでつなぐIoTと5G
  • 第8章 複雑化する社会を理解し適応するためのAIとデータ・サイエンス
  • 第9章 圧倒的なスピードが求められる開発と運用
  • 第10章 いま注目しておきたいテクノロジー
Comment(0)