当たり前のことを特別と感じることがおかしいのかも知れない
「なんて当たり前なことしか書いていないんだ。」
この本を読んだ、率直な印象だ。
目標設定もなければ、決済もない、働く場所や時間も縛りがない。休暇をとるのも自由だし、その許可を得る必要もない。そんな会社運営がうまくゆくわけがない。多くの人の思い込んでいるこの常識を見事に吹き飛ばしてくる痛快な物語だ。
しかし、なにも突拍子もないことを実現しようとしているわけではない。実現したいのは社員の幸せであり、お客様の幸せだ。それをひたすら突き詰めた結果が、こうなってしまったとう当たり前のことしか書かれてはいない。
ただ、改めて現実を見れば、働く人の幸せなんてどこかに置き去りにされ、目に見える規則や見えない慣例に縛られて働いている人たちは何と多いことか。一方、お客様の幸せではなく、厳しいノルマの達成が優先される働き方を強いられる企業も少なからずある。
こういう企業に共通するのは、「社員をほったらかしにするとサボるから、しっかり管理しなければならない」という考え方だろう。また、「自分たちはいいものを作り、提供しているのだから、お客様がそれを使えば幸せになれる」という自信なのかも知れない。
社員を管理してしっかりと働かせれば、お客様にいいものを提供できる。そうすれば、社員の給与やボーナスは増えてゆき、お客様も成長でき幸せになれる。そうすれば、社員もやり甲斐を感じ、幸せになれる。そんな価値観に支配されているのかも知れない。
このような企業が多く存在する理由は、社員にしてもお客様にしても、とても楽な生き方だからだ。誰かが与えてくれたルールや価値に、がむしゃらに従っていればいいだけなので、ひとりひとりが自分で考え、学び、知恵を絞る必要がない。そんなことは、誰か一部の人に任せておけばいい。
経済が右肩上がりで成長していた時代は、このような考え方が、個人の幸せと企業の成長を同時に実現できる合理的な考え方だった。だからこそ、がむしゃらに働いていれば昇給でき昇進ができる年功序列が機能していた。こんな価値観から抜け出せていない企業がまだまだ沢山あると言うことなのだろう。
しかし、時代は変わってしまった。与えられたルールや価値観があっという間に陳腐化する時代に、自分で考え、判断し、行動できない人材を抱えている企業は生き残ることは難しくなってきた。
「45歳以上はリストラ」が叫ばれるのは、彼らが、年功序列時代の人たちであり、そういう過去の価値観を変えられない人たちだという基準なのだろう。そういう人たちと決別し、年齢に関係なくパフォーマンスに応じた給与を払い昇進させる企業へと転換したいという企業の思惑があるからだ。
では新しい価値観とは何か。それは、セルフマネージメントができる自律的な人たちの集団としての企業だ。ひとり一人が、企業内の尺度ではなく、社会的な尺度で評価される価値を持ち、自分の責任によって目標を設定し、どうすれば、お客様や社会に貢献できるか、どうすれば、それにふさわしいスキルや能力を身につけることができるかを自分で考え、学び、行動する人たちの集団としての企業だ。そのためには、能力に関係なく給与や昇進が決まる年功序列ではなく、年齢に関係なくフラットで、心理的安全性が担保される組織が必要になる。たぶんこれからの企業は、そんな方向に向かってゆくのだろう。
そんなこれからの「当たり前」が書かれているのが本書だ。
「当たり前」のことが、特別であると感じるのは、まだ自分が過去の価値観に支配されているからだろう。「なに言っちゃんてんの?そんなこと、当たり前じゃないか。」と感じられることこそ、正常な感覚なのかも知れない。本書は、そんな自分の価値観の踏み絵でもある。
著者である倉貫さんの取り組みは、未来を先取りしている。自分たちが、あるいは、企業がこれからどこに向かってゆけばいいのかを示唆してくれている。何年か先には、だれもがこの物語を「当たり前」と感じられる時代が来るのかも知れない。
倉貫さんにそんな話しをしたら彼は次のように答えてくれた。
「そのころには、私たちはさらに10年先を行ってますよ。」
いい加減にしてくれ(笑)!
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