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【図解】コレ1枚でわかる工数見積に根拠がない理由

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現在のSI業界の一つの課題として人月積算ビジネスが挙げられます。人月積算ビジネスとは、人月積算で金額を決めておきながら、瑕疵担保責任としてSI事業者が完成責任を負わされるビジネス構造です。

例えば、システムエンジニアが1ヶ月100万円とすると、システムを作るのに、10ヶ月ほどかかるシステムであれば、エンジニアの見積もりとしては10人月、1000万円という見積もりになります。これは、1ヶ月で働くエンジニアの生産性が均一であることが大前提の積算システムなのです。

ではなぜこんな価格算定方法になったのでしょうか。人月積算の歴史を紐解くとよくわかります。1970年代システム開発はメインフレームを販売し、そのハードウェア販売への対価をもらうビジネスでした。プロフェッショナルサービス(導入に関するエンジニアリング)は無償で提供され、メインフレームが持つテンプレートをそのまま使うのが主流でした。1980年代になるとメインフレームのテンプレート以外でもCOBOLなどのプログラミング言語でアプリケーションを作るようになってゆきました。このころ、SI事業者がいまでも見積もりでよく使っているファンクションポイント法が登場します。

ファンクションポイント法とは、1979年にIBMのアレン・J・アルブレヒト(A.J.Albrecht)が考案したソフトウェアの規模を測定する手法の1つでソフトウェアがもつ機能数や複雑さによって重みづけした点数を付け、そのソフトウェアにおける合計点数から開発工数を見積する方法です。

この方法は、上から順に一つ一つ書いていく、つまり「シーケンシャルにコードを入力する」ことを前提に考えられています。この場合は、1ヶ月間でコードを書く量は、だれがやってもほとんど差がありません。機能数や複雑さに点数をつけて見積もりを作ったとしても、妥当な工数が導き出せました。しかし、1990年代C++言語やJava言語に代表されるオブジェクト指向プログラミングやウェブアプリケーションが登場し、大規模システムに適用されるようになりました。この方法だと開発生産性が飛躍的アップする分、どのような設計をするかで、1ヶ月あたりのエンジニアの工数が大幅変わってきます。そのためファンクションポイント法だけでは見積もりができず、ファンクションポイント法をベースに、過去の経験と勘に基づく規模感を勘案し、それを山積みして算出する方法で見積もりを作るようになったのです。

サーバーやストレージなどのインフラ側の見積もりも、技術が細分化されたので、知見のあるエンジニアの場合とそうでないエンジニアの場合では、1ヶ月で働くエンジニアの生産性が均一ではなくなりました。

現在の見積もりは、過去の類似例を参考に期間を積む方式で作られているため、過去に経験のないものについては余裕分を上乗せし、見積金額を算出しています。しかし、未知の案件では、その余裕分さえも食いつぶし、赤字案件が増え続けました。赤字案件が増えるので、コンテンジェンシという名目でさらに余裕分を上乗せし、期間以上に見積もりをするようになったため、見積金額の積算根拠が曖昧になってしまいました。それは、顧客との信頼関係を悪化させるひとつの原因にもなっています。

さてもう一つの問題は、瑕疵担保責任です。システムは、顧客と決めた仕様通りに納品しなければ、瑕疵担保責任として修正を義務づけられます。期間×人数で見積もっているので、これが増えれば、本来は、追加費用を支払ってもらわなくてはなりません。しかし、契約は、期間×人数で見積もった金額で請負契約となりますので、お客様の支払金額は原則として変更されません。加えて、この瑕疵担保責任があるため、「仕様書通りではない」ということになれば、仕事を受託した側は、検収・支払いが人質に取られているようなものですから、泣く泣く対応せざるを得ないのです。

顧客側は、仕様を一度決めてもビジネスが変われば仕様を変更します。なぜならシステムはビジネスのための手段ですから、ビジネス環境が変われば仕様も変わるのは当然です。しかしシステム開発者側は、当初合意した仕様通りに作ることを目指しますので、根本的なゴールの不一致が起きています。

このような事態に対処するため、COCOMO法やCoBRA法などの見積積算方式が考案されました。しかし、コストの算出根拠が難しく、ユーザーになかなか受け入れられていない状況です。

このような人月積算の歴史から考えれば、人月積算ビジネスはすでに崩壊していると言えるでしょう。しかし、このシンプルな見積もり方法以上にわかりやすく、見かけ上の論理性を持つ見積もり算定方法がないため、人月積算ビジネスをつづけざるを得ない状況なのです。

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【図解】コレ一枚でわかる最新ITトレンド 増強改訂版

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