「過剰品質」という気持ちよさ
営業として現役だったころ、ある大手家電メーカーをお客様として担当していたことがあります。そこで、エアコンを作っていたのですが、その製造コスト削減策として、組み立て作業時間をどうすれば、削減できるだろうかという検討を行ったそうです。その折、配線の取り回しをもっと簡単にすればいいのではという話題がのぼったそうです。
わたしも製造現場を見せていただいたことがあるのですが、その配線の取り回しはみごとと言うしかありません。実に整然と機器内の構造物と一体化していました。まさに職人技。乱れのない、そして撚りのない配線は、美しさを感じるものでした。
しかし、このような美しい配線は手間のかかる作業だそうです。もっと簡素に作業を行えば、作業時間を短縮できそうな気もします。配線ですから機能に違いがでることはありません。だから、「過剰品質」ではないかと話題になったのでしょう。
しかし結局は、その作業に手をつけることはなかったそうです。詳しい事情はわかりませんが、それはもう理屈を越えた常識であり、そうでないこと自体を受け入れられない、理屈を越えた空気のようなものがあったのではないかと思っています。
工場の方が、「そんな日常の当たり前が、私たちのモノ作りの基本にあるんですよ。品質は、そんな現場の当たり前の結果であり、必ずしも厳しく管理されてできるものではないんですよ」とおっしゃっていました。なるほどと感銘を受けたことを記憶しています。
先日、我が家の給湯器が故障しました。修理をしてもらったところエンジニアが次のようなことを言っていました。
「12年ももったのはこの部品が国産だったからですよ。最近の部品は外国製も増えて、こんなに持つことはまずありません。機能は変わらないんだけど、何が違うんでしょうね。作り方なのかなぁ。」
ふと、先の家電メーカーのことを思い出しました。
手前味噌ではありますが、私もまた、自分の資料作りに、私なりのこだわりがあります。その最大のポイントは、「一瞬のわかりやすさ」です。
細々と理屈を積み重ねて説明しなければ、わかってもらえない内容を、どうすれば一枚のチャートだけで、瞬時にわかってもらえるようにできるか。パワーポイント上に配置されるボックスの形や色、左右上下の位置関係、それぞれの内容に応じた色分け、空間の均整と間の取り方などを考えながらの資料づくりは、必ずしも生産性の高いものとは言えません。
一度書き上げても、もう一度見直すと何かしっくりこないので、改めて全体のバランスを考えながら、配置や形、色を調整します。
「そんなことに時間を割くなんて馬鹿なことはやめるべきだ。もっと中身を考えることに時間を割くべきだ」
そんなこと言われることもあります。しかし、内容と表現と表裏一体な存在です。表現をわかりやすくしようとすればするほど、内容の本質に迫らなくてはなりません。
一見複雑で、漠然としていることを、相手にわかりやすく伝えようとすると、その内容の本質を考え、それをバラバラにして、自分なりにわかりやすいように並べてみる。そして、これをどう並び替えれば、相手は理解できるだろうかと考えます。何色を使い、画面のどこに配置すれば思考に無駄な雑音を発生させることなく、すっと相手に伝わるだろうかを考えるわけです。資料の順序も大切です。「自分は分かっているからこの順序で大丈夫」ではなく、分かっていない人の思考プロセスを想像し、その順序を考えてゆきます。そうすると、なるほど!と思える展開に気付くものです。表現を追求することは、内容を徹底的に理解しようとする取り組みでもあるのです。
先ほどの家電メーカーの場合も同様ですが、「こうせざるを得ない」がカタチになってしまったのだと思います。そうでなければ自分が、納得できないんです。それは、結果として、見た目にも美しいものに仕上がってしまうのでしよう。効率は悪いかもしれません。自己満足かもしれません、過剰品質かもしれません。しかし、その追求をやめることは、もはや気持ちが悪いのです。
アメリカの建築家のルイス・ヘンリー・サリヴァンは、「形態は機能に従う(Form Follows Function)」という言葉を残しています。「何かを実現するための機能を追求すれば、自然にその形は決まる」という意味です。
「過剰品質」とは効率として捉えれば無駄と評価されてしまいます。しかし、「過剰品質」と言われるほどに突き詰めてこそ実現できるものも世の中にはあるように思うのです。
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