パブリック・クラウドって本当に基幹業務で使えるの?
「パブリック・クラウドって、メンテナンスやトラブルでよくダウンするようですねぇ。これじゃあ、危なくてミッション・クリティカルな業務には使えませんよ。」
情報システム部門のインフラ担当者からそんな話を聞きました。何を根拠にそんなことを言っているのかは定かではありませんが、確かにこちらの業務都合に関わりなくメンテナンスでシステムが再起動されるなどという話はあるようです。ただ、可用性だけを見ると、企業が所有するシステムに比べ遜色がないばかりか、それ以上とも言えるレベルです。
クラウド・サービスの可用性やサービス状況を比較できるCloudSquareというサイトがありますが、これを見ると主要なサービスはどれも高い可用性を維持していることが分かります。
ただ、そもそもパブリック・クラウド(以下IaaSについて)はインフラを他人に預ける訳ですから、こちらが管理しきれない限界もあることは事実。従って、オンプレミスとは異なる視点で、システム・インフラをデザインすることが必要になります。また、そもそも、オンプレミスでは物理的なシステム資産を所有しなければならない故の制約もありました。パブリック・クラウドでは、その制約から解放され、あるべきシステムのデザインも可能になると言えるでしょう。
Simple Design
まずはシンプルなシステム・デザインをすることが大切です。例えば、オンプレミスでは、サーバーをハードウェア資産として所有しなければなりません。そのためできるだけ最小限のハードウェア台数にとどめそれをうまく使いこなすことが優先されます。また、減価償却の期間、使い続けなければなりませんから、用途が変われば構成を変更し、その変更履歴を管理しつつシステムを使い続けることが求められます。
しかし、パブリック・クラウドであれば、システム資源が仮想化されるので、インフラ構築に物理的な制約をうけることはなく、機能や役割別に仮想サーバー(インスタンス)を起ち上げ、追加し、破棄を頻繁に繰り返すことができます。従って、変更履歴を管理する必要はなく、いま動作している仮想サーバーの状態を確実に監視・管理しておく必要があります。
システムはシンプルに構成できます。そのため、変更履歴が正しく管理されず実際とはずれているために起こるトラブルも回避され、運用管理負担の低減にも貢献します。
このようなクラウドならではの仕組みを活かすことで、システムの管理をシンプルにし、状態をわかりやすく見える化することでガバナンスを担保しやすくできるのです。
Design for Failure
クラウドに限ったことではありませんが、絶対にダウンしないインフラやプラットフォームを作ることはできません。従って、障害発生が起こることを前提に障害が発生しても問題なく運用できるようなシステム設計を行うことが大切になります。
先に紹介した「Simple Design」を活かしつつ、何らかの障害が起きても簡単に障害箇所を切り離し、異なるデータセンターや独立した管理単位(AWSではそれぞれをリージョンやアベイラビリティ・ゾーンと呼んでいます)に置かれている別のシステムに切り替えることや、SPOF(Single Point of Failur:単一障害点)を作らないシステム構成にするなど、どこかに障害が起きてもサービス全体の健全性を保つような工夫が必要となります。
このような仕組みを実現するには、人間が常時運用監視・管理を行いながら対処することはできず、検知・報告・対応の全てを自動化することが必要になります。また、徹底した運用管理データを収集・分析することでサービスの健全性を継続的にブラッシュアップすることにより、より低コストで安全安心なシステム運用を実現できるのです。
パブリック・クラウドを利用するということは、このような取り組みを前提とすべきでしょう。オンプレミスをそのままにパブリック・クラウドへ移行するということでは、そのコスト効果を発揮できないばかりか、リスクを拡大しかねません。
可用性が高いかどうかといったサービス・レベルも重要な要件ではありますが、パブリック・クラウドならではの特性を理解した上で、システムをデザインすることが、大切になるのです。
*上記内容は、本日開催する「パブリッククラウド導入の企画提案力養成講座(クリエーションライン株式会社との共同開催/主催:日経コンピュータ)」で紹介する内容の一部です。
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今月の目玉は、「オンプレからパブリッククラウドへの移行」について、ドキュメントを追加しています。移行をご検討のユーザー企業・情報システム部門の方は企画書や経営会議の資料として、SIerの方はお客様の提案資料としてご利用頂けると思います。
なお、今月より「テクノロジー編」を「インフラ&プラットフォーム編」と「サービス&アプリケーション編」の2つに分割致しました。(全438ページとなり資料探しに手間がかかるようになったため)
【インフラ&プラットフォーム編】(246ページ)
- ハイブリッド・クラウドについて、各社の取り組みを比較しやすいように資料を作り直しました。P44
- PaaSについての解説をわかりやすく修正しました。p.55-56
- 「パブリッククラウドへの移行の勘所」と「パブリッククラウド移行の企画書・提案書の作り方」の章を新しく追加しました。SIerにとっては顧客提案資料として、また、ユーザー企業の方は経営会議や企画会議の資料としてご利用頂けると思います。p.77-94
【アプリケーション&サービス編】(192ページ)
- 誤字・脱字等を修正しました。内容に大きな変更はありません。
【ビジネス戦略編】(74ページ)
- 「SI事業者の成功要因の変化」を追加致しました。
- 「PEST分析と5フォース分析で見るクラウド化」を追加しました。
- 「事業再構築の逆Cカーブ」と「SIビジネスへの適用」を追加しました。
- 「基幹業務のAWS適用事例」を追加しました。
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目次
- 第0章 最新ITトレンドの全体像を把握する
- 第1章 クラウドコンピューティング
- 第2章 モバイルとウェアラブル
- 第3章 ITインフラ
- 第4章 IoTとビッグデータ
- 第5章 スマートマシン