ついに来た!シリコン・ビーチ
サンタモニカ、ベニスなど、ロサンゼルスの西側のビーチ沿いにテック企業がちらほら出現し始めて、「シリコン・ビーチ」という異名がひそやかに囁かれ始めたのは今から2年ほど前のこと。
正確にいえば、「シリコン・ビーチ」という名前は80年代半ばから既に存在したらしいのですが、注目度アップの引き金になったのは、2011年に、かのグーグルがベニス・ビーチ地区にLAオフィスをオープンしたこと。
同時期に、自動消滅する写真・動画共有アプリ「SNAPCHAT(スナップチャット)」が、ベニス・ビーチのまさしく海を一望するロケーションにオフィスを構えたことも、知名度向上に拍車をかけました。日本ではあまり知られていませんが、ロサンゼルスは実は500以上のテック系スタートアップ企業を擁し、北のシリコンバレーに次ぎ世界で二、三位の地位を争う「テクノロジー・ハブ」なのです。
その規模にも関わらず、今日まで、ロサンゼルスのテック・コミュニティはシリコンバレーやシアトルに比べて影が薄く、比較的地味な存在でした。足枷となっていたのは、アメリカのテック業界の軸を成すグーグル、フェイスブック、アマゾンなどの大手の存在を欠いていたことです。
しかし、2014年12月4日づけで、グーグルがLAオフィスの大幅拡張を正式に発表。金額にして1.2億ドル相当、総面積12エーカー(約50,000平米)の敷地を買い上げ、さらに6,000人以上を雇用するものと推察されています。
もとより、ロサンゼルスはUCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)、USC(南カリフォルニア大学)、ペッパーダイン大学、ロヨラ・メリーマウント大学など世界的に知られる名門大学のお膝元でもあり、一握りの著名インキュベーターも存在します。しかし、これまでは、これらの大学で教育を受けた若く有能な人材が、より有名でよりエキサイティングな大手テック企業やスタートアップ企業での就職機会を求めて、卒業と共にシリコンバレーやニューヨークに流出してしまうというのが現実でした。
グーグルが7,000人~10,000人級の拠点を構えることで、ロサンゼルスが若いエンジニアやプログラマーにとってより魅力的な土地になります。これは、地域の他のテック企業にも良い影響をもたらし、「シリコン・ビーチ」全体の活性化にもつながるでしょう。
現在、若いテック・プロフェッショナル同士の交流やネットワーキングを目的とした会合が月一度の頻度で地元のバーなどを貸し切って開かれており、この主催もグーグルが務めています。コミュニティに貢献することで、グーグルというブランドに好感情をもってもらうこと、また、これらのイベントを通して、優秀な人材を見つけ、リクルートすることもその思惑であると思われます。
グーグルの現オフィスがあるベニス地区は、昔は浮浪者も多く、ビーチの賑わいと貧困が隣り合わせの街でしたが、この20年で様変わりし、最近、テック企業が入ってきてさらに活性化した感じです。新築のコンドミニアムが立ち並び、流行に敏感でヘルス・コンシャスな若者層の関心に訴えるジュース・バーやコーヒー・ショップ、ビーガン・レストランやワイン・バーが軒を連ねます。
今やまさに生まれ変わろうとする街の息吹に胸を躍らせつつも、地元住民としては、テック企業の流入で地価や物価が高騰するのではないか、また、ロサンゼルスの「ビーチ・シティ」ならではのゆったりとした、肩の凝らない独自の文化が損なわれてしまうのではないかと、一抹の不安が頭をもたげるのも禁じえないのでした。