Google Wave 長距離砲のビジネス着弾はいつ頃か?照準はどこか?精度はどうか?
Bingジャマーだったかどうかはさておき、Google Waveを友好的に告知するという
試みは成功しているように思われる。しかし、Google I/Oから1週間たった今でも、
賞賛の声をよくよく聞いてみると、大半は「なんかすごそう」という域を出ない。
新しいコミュニケーションのスタイルを積極的に考えて実装、検証してみたいという
一部のクリエイターや、単なるアプリではなく充実したSDKやプロトコルまで含めた
世界観を整備するために、覚悟を決めて投資しているGoogleの姿勢に、その発信者側に
回れなかったことを悔やみ羨むエンジニアは、各自の声こそ大きいものの、
特に日本ではかなり少数派なのではなかろうか。
マイクロソフト社内でも、実際にGoogle I/Oに参加したHQの人間を中心に、
当然のようにGoogle WaveやHTML5に関する議論が起こっている。もちろん、
その内容や、参加・分析レポートの内容を紹介するわけにはいかないが、
それらを眼耳にした私の個人的見解をここで述べておくことにする。
くどいが、マイクロソフトの総意としての見解ではない。
まず、Google Wave。一部にはExchange/OutlookやSharePointの潜在的競合になる
という話もあり、サービスやWebアプリとしてとらえた場合には、ある意味正しい
かもしれないが、技術的に古くはhailstormというコードネームが指していたもの、
最近の動きでいうならばLive Framework、Meshテクノロジに、Google Waveに似た雰囲気がある。
People Ready、社員力を標榜し、それなりな規模の研究開発組織を擁する
ソフトウェアベンダーが、Google Waveのようなコラボレーション環境に
取り組んでいたとしても不思議はないだろう。アプリケーションとしてみた
素のGoogle Waveは、特に何かの機能がものすごく先進的というわけではない。
互換性のしがらみやビジネス面に縛られなければ、技術的な難易度という観点で
参入障壁が高いものではなく、他の誰かが開発できないものではない。
開発途中の段階でここまで詰めているという点を公開情報のボリュームと
迫力を訴求し、Google Waveの対抗となるようなプラットフォーム自体の
開発意欲を減衰させ、自分たちの世界観に同調してくれる開発者層を
早期に獲得する戦術なのだろう。
マイクロソフトがGoogle Waveのような技術をセンセーショナルに発表できて
いないことには多少悔しい思いも当然あるが、冷静に考えれば正しい判断だといえる。
Google Waveが実際に世の中に受け入れられるのか、ある時点で飽きられるのか、
定着した場合どのように使われるのか、結果、どうやってビジネスモデルを
作り上げてゆくのか、踏み込むにはまだ不確定要素が大きすぎるのである。
先駆者たるGoogle Waveが西海岸を中心に、革新的なワークスタイルを
生み出すことに成功してくれれば、フォロワー層や他の地域に波及する時期を
見計らって対応策をとればよい。そしてその確率は現時点で十分高いとはいえない。
Day2のGoogle Waveだけでなく、Day1のHTML5についても同様だ。
HTML5標準化の動きは、土俵をOSからブラウザに持ち込みたいGoogleの賭けなので
あろうが、火急に世の中がひっくり返せるわけではない。そして、堪えきれずに
ブラウザの相互互換性を犠牲にしてまでGoogleが自社ブラウザを出してしまったことで、
ある意味マイクロソフトのSoftware+Serviceの世界観に同調してくれているのである。
これはAdobeのAirにもいえることだが、標準的なWebインタフェースだけで実現できる
世界観に限界を感じ、何らかのプラットフォームが必要なのだが、それがWindowsだと
おもしろくない、というだけの話だろう。
そして、FireFoxをうまく丸め込んで合従連衡したとしても、企業内で多く使われる
標準ブラウザであるIE6を変えさせるのは難しい。IE8への誘導で苦戦している我々が
いうのもなんだが、もし、VB + ActiveX で構築された無数の企業内Webアプリを
どうにかして次の技術に突き動かす梃子となるテクノロジーか、空気感を作り出して
くれるのであれば、それはマイクロソフトにとっても嬉しいことである。
HTML5のメリットを引き出し、それを使わなければ機能しないというサービスが
本当に世の中に浸透してくれば、それを追随すればよい。各自の行動変革、意識変革、
組織としての投資判断を伴うような世の中の変革は、メディアが騒ぎ立てるより
ゆるやかなのである。西海岸在住のギークは世間から見れば少数派でしかない。
そして、そうこうしているうちに、新しい技術がでてくることも考えられる。
Java Oneでマクネリー氏と並んで壇上に上がったラリー・エリソンが語る
NC(Network Computer)の未来を信じてオラクルに入社した私にとって、
仮想化技術やシンクライアント、ネットブックなどを見るたびに、ようやく実現したか、
と感慨深い思いをする。彼らビジョナリーの世界観は、世の中が正しく咀嚼して
使いこなし、そのメリットを享受するには、おおよそ3-5年くらいのタイムラグがある。
3-5年といえば、企業が中期経営計画をたてる際の1つの区切りだろう。
この先行き不透明な世の中、確からしい中期計画を自信を持って立てられる
企業は少ない。できることといえば、変化をいちはやく察知し、方針や
オペレーションを変更しやすい機動力を高めておくことくらいではなかろうか。
同じく、3-5年といえば、Windowsをはじめとするマイクロソフトの各製品ラインが
メジャーバージョンアップを行うサイクルでもある。10月の出荷が発表され、
すでに多くの方々にRC版をお使いいただいて好評を博しているWindows7の次、
Windows8?が広まる頃、Windows8?にIE9/10?が同梱される頃、Office 2013?が
出荷される頃?保守切れになったWindows XPがどのくらい残っているか?
Google WaveやHTML5を全機的に使いこなしている人や企業はどれだけいるだろうか…、
と一歩引いて考えてみると、冷静になれると思う。
慌てず、騒がず、その意義を考えてみるべきだ。