ガートナーが唱える、クラウドの落とし穴=> サービス事業とは何かを考える
ガートナーグループが自社のコンファレンスをラスベガスで開催し、昨今のクラウドのビジネスについて論じている。特に興味深いのは、同社のVPであり、 Distinguished Analystの肩書きを持つ、Thomas Bittman氏の発表内容である。
要約すると、今後のクラウド市場は様々なクラウド事業が乱立する市場になり、その中には消えていくサービス事業社も出てくる、という事である。
非常に興味深いのは、消えていくクラウド事業者の中には、大手の企業も含まれる公算が大きい、という事をしてきている事である。 Bittman氏の分析によると、クラウド事業というビジネスにとって、最も重要な要件は、"Agility”、つまり迅速性だ、という事である。
この迅速性、という重要な要件に対して、特に大手のクラウドベンダーがついていけなくなる可能性がある、という事を指摘している。
過当競争の中で一部のベンダーが敗退し、事業撤退する、という事は何も今日に始まった事ではないが、特にクラウド事業という話になると、企業の重要な資産、個人情報、機密情報を管理するインフラ事業になるので、企業としては、万が一の際のバックアッププランを常に用意しておく必要がある、という事が述べられている。先日欧州でAWSが障害を起こし、一部EC2サービスが停止したが、今後も規模のかなり大きい障害が起き、企業の運営に支障をきたす事件が起きる可能性が大いにある、と考えられる。クラウドベンダーにとって、こういった障害事件は致命的な結果をうむ事もありうる。
Bittman氏が述べている中で、もう一つ興味深いのは、今後上記のリスクを避けるためにもクラウドブローカー事業が伸びていく、と述べている。具体的には複数のクラウド環境に企業の資産を分散もしくは多重化し、有事の際にもビジネスに支障を来さないための戦略を構築し、運営を関する事業者の事である。Gartnerの予測では、2015年には、20%のクラウドビジネスはこういったブローカーを通した運用になる、と予測している。
筆者もクラウドビジネスの最重要課題は、「Agility=迅速性」である、と強く感じるところである。
以前も書いたが、ユーザの方がむしろ、クラウドに対する期待として、「直ぐに使える」という事を第一に考えている、と解釈しており、クラウドサービスを提供する立場からすれば、この第一の期待に答えるスピード感のあるサービスを提供でき空ければ、あっというまに競合に客を取られる危険性がある、と感じる。意外と、組織の規模が大きい、大手のITベンダーが、この迅速性を提供するのに苦労するのではないか、と感じるところである。 現に、北米のクラウド事業者のリーダーは、どちらかと言うと昔ながらの大手IT企業ではなく、新興企業である、という理由もわかるというものである。
迅速性を優先すると、顧客のニーズをきめ細かく聞いて、SIがシステム構築を代行する、というスタイルよりかは、ユーザが直接オンデマンドでシステムを構築し、自分でシステムを運用するスタイルが多くなる、という事も想定すべきである。完全にユーザ主導のIT構築である。SIはどちらかと言うと、後から入ってきて、ユーザが独自に構築できない部分をカバーする、という方法論かも知れない。
サービスビジネス、というのはそういうものだ、とかえって割り切って考えないと、ユーザの期待とIT企業の思惑に大きなずれが生じる可能性がある、と思うところである。