クラウドアプリの条件とは?
前回のブログの続きです。
クラウドAPIについて書きましたが、今度は、クラウドアプリケーションたるべき条件ということについて少し言及したいと思います。
クラウドプラットホームになると、従来のSIの中核的な作業であったアプリケーション間の連携、という事に対する考え方が大きく変わってきます。クラウド上の世界は、ある意味では「何でもあり」の世界です。
あっと、ここで明確にしておきたいのは、クラウドアプリ、というのは必ずしもSaaSだけではない、という事です。SaaSは、
言葉の通り、Software as a Serviceを意味しており、ソフトウェアの使用権をライセンスで販売するのではなく、月額費用で徴収する、という販売モデルをもったソフトウェアビジネスの事を指します、厳密には。月額収入のモデルでは、従来のライセンス事業で別枠になっていた保守サポート費用というものが、使用権と一緒に含まれるため、極力バージョンの数を減らし、保守コストを少なくする事が重要になります。バージョン数を減らす、という事は顧客の利用するコピーの数を減らす、という事であり、つまりシングルインスタンス/マルチテナントの構造を持つ、という事に結びつきます。
クラウドアプリケーションたる条件として、今は次の2つの要件がある、と考える様にしています。
(1)Integration APIを持つ事
クラウド上では、アプリケーションの統合、連携が非常に簡単に出来る事がどうしても必要になります。クラウド環境に於ける標準化、というのは当面期待できそうも無いので、アマゾンクラウド、Rackspaceクラウド、合わせて日本のクラウド市場で開発されている様々な独自仕様のクラウドAPI、等いろんな仕様のクラウドが乱立しています。アプリケーションも、自分が乗っているクラウド以外の所との連携がどうしても必要になってきます。その際に、その連携先のアプリケーションを自分のクラウドプラットホームに移植するのではあまり意味がありません。異なるクラウド同士のアプリケーションがお互い連携し合うためのAPIを公開する事によって容易な統合を実現するのが筋です。これがIntegration APIの考え方です。APIの内容はアプリケションの種類によって異なってきます。ID管理、セキュリティ、課金、データバックアップ、をはじめ、いろいろと種類が出てきてますが、それぞれ、ある程度汎用化されたAPIセットを公開する事によって、比較的簡単に他のアプリケーションとの連携を実現できる様にする、という事です。
こういったAPI公開が一般的になってくると、クラウドアプリケーション同士の自由な連携が出来る様になり、尚かつそれがSIサービス事業によって支えられる、というビジネスモデルが成立します。
(2)Template APIを持つ事
クラウドアプリケーションは、基本的にユーザの固有のニーズに対するカスタマイゼーションを行わないのが基本です。シングルインスタンス+マルチテナントの構造なので技術的に出来ない、という事です。しかしながら、各クラウドアプリケーションが、ユーザ独自のテンプレートを構築できる様なインフラをサポートする事によって、こういったニーズにある程度答えられる様になる、というのが最近のクラウドアプリの動きです。テンプレートの対象になるのは、帳票等のフォーマット、付加価値を提供するアプリケーション、等顧客固有のニーズに答えるためのユーザ付加機能です。
さらに、
● クラウドアプリケーションベンダー自体が開発し、提供するテンプレートライブラリ
● ユーザコミュニティを通してユーザが公開(有償の場合もあり)するテンプレートマーケットプレイスの運用
● 3rd partyアプリケーションベンダーがこぞってテンプレートを提供するライブラリ
等、いろいろな形でのテンプレートを公開するビジネスモデルが登場し始めている。
さながら、パズルを組み合わせる様に、各々のクラウドアプリがそれぞれ「つなぎ口」を用意し、他のアプリケーションとの連携、さらにクラウドならではのカスタマイズの手法を提供する事により、ユーザにとっては非常に多様性があるシステム構築の方法が出来上がる、というのが今後のクラウドコンピューティングの大きな強みとなって成長していくのではないか、と思うところである。
今までは、SaaSアプリケーションというのは単独で顧客層を稼ぎ、単独の事業としての力を問われてきた面があるが、これからはいかに複数のクラウドアプリを複合化する事によって付加価値、差別化、をうむことが出来るのか、に注目が集まるのでは、と感じる所である。ましてや、SI中心のIT市場である、日本の様な国に取っては、この辺のソリューション事業は多いに育つ可能性があるのではないか、と感じる所である。