スマートグリッド管理システムの各州での状況分析: アメリカの本当の強さを発見
このスマートグリッド管理サービス、具体的 に何かと言うと、スマートメータ、AMIインフラの導入に伴って、いよいよこれらのメータから収集する大量のデータを分析し、コンシューマの立場から見て 付加価値の高いサービス(オフピークの価格割引、障害の早期検知・対策、電力消費の節約ソリューション、等)を提供するためのシステム全体を指す。
スマートグリッド管理サービスの中でもっとも伸び率が高いのは、デマンドレスポンス(DR)を含むアプリケーションアウトソース事業である、としている。 これが2015年までには、電力インフラのアウトソース事業、さらにビジネスプロセスのアウトソース事業が大きく伸びる可能性が高い、としている。
北米各州において、スマートグリッドの実証試験が展開され、現時点では一通りメータの実装が完了しているところが多い。 しかし現状では、メータを導入しても、電力会社サイドの情報管理インフラが整備されていないため、メータの本来の性能を活かしたデマンドレスポンスや障 害検知・対策システムを展開しているところは殆ど無いのが現状。 下記の通り、各州での現時点での取り組みを簡単にまとめる。
Maryland州、Baltimore市
Constellation Energy社の子会社であるBaltimore Gas & Electric(BGE)社は、Accenture社とOracle社と組んで、自社の抱える1200万人のユーザに対するスマートメータネットワーク の構築を行う事を発表している。 主たる機能は、次の通り。
- 電力需要ピーク時の消費削減
- 顧客サービスの向上
- 操業の効率向上
- 顧客Webポータルシステム
- メータデータ管理システム(Meter Data Management System:MDM)
- スマートメータネットワーク(Advanced Meter Infrastructure:AMI)
- BGE社の従来運用していた顧客管理、課金、障害管理等のシステムの統合
ハワイ州は、SAPと組み、州内の40万人を対象にクリーンエネルギー化を目指した施策を展開する方針を取っている。SAPに委託しているのは、次のプロジェクト。
- 顧客管理システム
- コールセンタ
- 課金システム
- メータデータ管理システム(MDM)
Colorado州、Colorado Springs市
Open Systems International, Inc. (OSI)社が、Colorado Springs Utilities社から自社のガス、水道、電気供給システムに対する新しいエネルギー管理システムの導入の委託を受けた。
Colorado Springs Utilities社は、Colorado州のPikes Peak地域に住む65万人を対象としたガス、水道、電気の供給している。管理システムの改善にOSI Systems社を選んだのは同社の高い信頼性と実績を評価している、と述べている。
- 次世代Microsoft .NET ベースの GUI
- SCADA 機能
- リアルタイムと履歴情報に基づいた電力消費分析
- DNP, Modbus, Vancommプロトコルをサポートする通信フロントエンドプロセッサ
- 履歴情報のデータ管理、アーカイブシステム
- 負荷管理、負荷分散機能
- 電力供給管理の自動化
- Unit Commitment/Transaction Evaluation
- 短期的な電力需要の予測
- ネットワークのセキュリティ分析
- OLTPインフラ
- 電圧制御
Orlando Utilities Commission(OUC)は、Siemens社のeMeter EnergyIPと呼ばれるMeter Data Managementシステム(MDM)を採用する事を発表している。 このSiemens社の技術を採用し、31.3万人世帯の電力供給に対するサービス向上を目指す。
Siemens社に期待されているのは、 MDMに関する製品技術を持っているベンダーとしての技術力のみならず、OUCの保有する2種類の顧客管理システムやバックオフィスシステムを統合する事 ができるMDMシステムの優れた技術力とプロジェクト管理能力である、とOUCのDirector of Applications Systems, Dan Holverson氏が述べている。
OUCは、このシステムの導入によりよって、次の様な改善を提供する事を計画している。
- 各家庭に対する課金の制度の向上
- 顧客サービスのスピード向上
- メータの読み取り速度と精度の向上
- リモートでのメータの読み取り機能
- 停電時の対策の効率向上
Kansas州、Lawrence市
同市の電力会社、Westar Energy社は、Elstar社の技術を採用し、同市内の4.8万台のスマートメータ導入、及び管理を実施することを発表している。
- リアルタイムの電力グリッドの監視
- コンシューマに対して、日頃の電力消費状況をモニターできるためのサービス
- サービス全体を信頼性の向上
- 電力障害時の対策のスピード向上
Westar 社は、他数社のスマートグリッドソリューションを提供するベンダーとの間の評価の中から選ばれている。 このLawrence市のスマートグリッドプロジェクトは、アメリカ政府、エネルギー省(DoE)から$1900万ドルの助成金を受け取っており、この助 成金を受け取るための政府に対する詳細な申請書類、特に技術情報や、セキュリティに関する関係書類等の作成にもWestar社は大きく伸びる寄与してい る、と報告されている。
Atlanta州、Georgia市
Atlanta 南西地域での最大の共同電力会社である、Cobb Electric Membership Corp.(Cobb EMC)社は、自社の顧客である、20万世帯に対するスマートグリッドソリューションの実装にSensus社の技術を採用した。 Sensus社は、自社開発のスマートメータと、Sensus Flexnet Advanced Metering Technologyと呼ばれる管理システムを導入する事により計画。
Cobb EMCがSensus社の技術を選択する決断をした最大の理由は、下記の理由による、と発表されている。
- FCCライセンスが必要な周波数帯域を使った通信インフラを採用しているため、混線の無い信頼性が高いネットワークが保障できる。
- 従来のユーティリティシステムとの統合が容易で、分散自動化、負荷分散、従量課金、顧客向けのエネルギー消費監視システム等の統合的な構築が可能。
もう一つのメリットとして、Cobb EMC社のCOO、Chip Nelson氏が次のことを述べている。
"We will now be able to automate meter reads, removing an anticipated 30 trucks off the road, and leverage greater intelligence for applications such as proactive detection of outages."
このシステムの導入で、メータの読み取りが自動化され、従来の利用していたトラックを30台削減する事ができると共に、電力障害時の検知がより高精度で行うことができる。
Cobb EMC社は、顧客に対する十分な情報伝達に特に心がけている模様である。 自社のWebサイトでの情報提供に加え、スマートメータの設置と同時に各家庭に対して、新しいメータの機能やメリットを説明するレターを届け、電話でフォ ローアップする、という徹底振りである。特に2011に計画している、価格変動システムの導入で向けて、各家庭内における電力消費の上手な節約方法について、教育していく予定である。
Missouri州、Kansas City市
Landis+Gyr社は、Kansas City Power & Light (KCP&L)社のスマートグリッドデモプロジェクトに対して、メータ管理、グリッド自動化のシステムである、Gridstreamソリューションを提供することを発表している。
こ のプロジェクト、特に、各家庭向けにプログラミングができるサーモスタット、家庭内に設置するモニター装置、ホームエリアネットワーク(HAN)等の実装 を行う事にに力を入れている点が特徴。さらに、KCP&L社のスマートグリッドプロジェクトは、ソーラーパネルの設置、EVの充電ステーション設置、蓄電 池装置の設置などにも積極的に取り組む。
まずは、今年の10月から、Landis+Gyr社とKCP&L社は、Gridstream RF スマートグリッド技術をを実装開始し、スマートメータと電力会社のネットワーク間の双方向通信インフラを実装する。対象地域は、"Green Impact Zone" と呼ばれる、Kansas Cityのミッドタウン地域の都市部とする事を計画している。
まとめ
各 州におけるスマートグリッドの導入による技術やアプリケーションは、大体似た様なものがある、という事がよくわかる。 主体となっているアプリケーションも、現時点においては電力会社の運用コストやリスクを下げるための施策が多く、あまりコンシューマに対するメリットと してクリアになっているものが多くないが、今後増えていく、という期待が大きい事も各社の状況を見て強く感じる所である。
い づれにしても電力会社が、従来もっていたITシステムの統合も含めて、外部のベンダーにアウトソースする、というパターンはスマートグリッドの導入におい てはかなり多くなる、と予測できる。 当然ながら、GE、Siemens、等の電力ソリューションの大手ももちろん、Oracle、IBM等の大手IT企業、Google、Microsoft 等の大手インターネットベンダーの活発な提案活動が増える、と想定できる。
日本の電力事情 も、インフラをより強化するためのIT導入はむしろ北米の電力会社より進んでいる、という面がある事から、あまり北米の様な動きはない可能性があるが、一 旦、家庭内のHANとの接続、それに伴う、家庭内のITソリューション、特にコンシューマに対して明確なメリットになるITソリューションを(生活レベル を大幅に変える事なく電力消費を節約するソリューション、太陽パネル・蓄電池・EVの導入に伴う新しい電力の利用方法、等)提供する事に対しては、日本は かなり出遅れている、という印象を強く受ける結果となる。
所詮、コンシューマが納得しな い事には、スマートグリッドの導入は成功しない、という考え方が、主要電力会社の間で理解が深まり始めている、という点と、その問題を解決するために、具 体的な技術をもつIT系の会社のソリューションがスマートグリッド市場に入る、動議的な理由が社会的に認められた、という事が言えるのではないか、と言え る。
複数業界が入り混じるスマートグリッドの市場、各業界がどの様に棲み分け、協業をし ていくのか、業界内・業界間の理解が必要になってくるが、北米ではその相互理解のステップが完了したと思うと、非常に大きな構造的な課題を解決した事によ る、今後市場が急速に成長するのでは、という期待も強くなる。 冒頭のPike Research社の市場の急成長も、そういう考え方の元では十分に理解ができる。
アメリカのオープンな市場は、こういう所が本当に強い、と改めて思う所である。