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商社マンの営業として33年間(うち海外生活21年間)、国内外で様々な体験をした。更に、アイデアマラソンのノートには、思いつきを書き続けて27年間、読者の参考になるエピソードや体験がたくさんある。今まで3年半、ITmediaのビジネスコラム「樋口健夫の笑うアイデア動かす発想」で毎週コラムを書き続けてきたが、私の体験や発想をさらに広く提供することが読者の参考になるはずと思い、ブログを開設することにした。一読されれば「読むワクチン」として、効果があるだろう。

食べ物珍体験 早朝のブタさん

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食べ物珍体験 早朝のブタさん

 ハノイに駐在して最初の1ヶ月間のDホテルの滞在は良かった。ハノイ市内の社宅が空くまで、このホテルに滞在した。

 建物の飾りは奇抜だが、部屋はクリーンだし、ボーイのマナーも気分が良い。もう少しお湯がたくさん出れば、と思う事くらいだ。このホテルに滞在しただけで、私はベトナム人の真面目さがよく分かった。

 このホテルは、市内の中心から少し離れていることから、宿泊費も安いし、前も後ろも湖になっていて、景色が良い。

 東京ー香港ーハノイと朝から夕方まで掛けて、ベトナムに到着した日、正直言って、このホテルの部屋に入って、ようやく落ち着くことができた。

 夕食を前任者と一緒にホテルで食べ、ベトナムビールと春巻きを食べて、部屋に戻ったのが9時、つまり日本の11時だった。荷物のかたづけもしないで、私はベッドに倒れるように寝た。最初の晩としてもっと緊張するかと思ったが、すべてスムーズに行って、ほっとしたのだろう。

 「ギャーギャー」という鋭い叫び声で、目を覚ましたら、朝4時だった。「何だ、ありゃ」と、思っていると疲れと眠気が有って、私は再び眠りに落ちた。

 次の日の晩も、11時頃に眠ったら、やはり朝の4時ぴったりに、「ギャーギャー」という声がした。「何だ、ありゃ」と、耳をすませると、その後で、ぶうぶうというブタ特有の声がした。

 ああ、そうか、あれはブタだ。なるほど、ベトナムのブタは何て早起きなんだ。朝4時になると、ニワトリさんのように、ベトナムではブタが鳴くのか。いや、ひょッとすると、誰かがブタの足を踏んだか、あるいはブタの尻を蹴ったのかもしれない。などと色々思って、また眠りに落ちた。

 3日目の朝も、4日目の朝も、やはりブタが鳴く。その後で、ニワトリが泣き出す。それもブタが腕時計を見ながら、あるいは目覚ましを掛けて鳴いているのではと思うくらいに、極めて正確に朝4時。

 5日目の朝4時、私はブタに起こされて、トイレに立った。トイレから帰りに、私は早朝の裏の農家の景色を見ようと、窓から下を眺めた。

 まだ真っ暗だ。ブタが騒いで手を振っているとは思わなかったが、気が付いたのは、裏の農家の庭に裸電球が一つぶら下がっていて、その下に何人かの人がいる。近眼乱視老眼気味の私が、メガネを外した裸眼で見ても、何も見えない。どうも洗濯をしているようだ。

「何と、早くから洗濯だとは」と、感心しながら、双眼鏡を持ち出して、眺めてみると、彼らが洗っていたのは、ブタの内臓だった。

 おじいさんも、おばあさんも、お父さんも、おかあさんも、子供たちまでが、その農家が一家総出で、ブタを解体して、肉を分けていたのだ。
「ああ、そうなのか。毎朝、ブタを屠殺していたんだ。だからあんなひどい声を出すんだ」

 唖然として、ブタが解体されていくのを見ていたら、5時半には、年長のおばあさんと若いおばさんの二人がざるに山積みになったブタの肉を、かごに入れ、天秤棒でかついでどこかの市場か通りに売りに出かけていく。それまでは一家全員でてきぱきと働いて、その庭を水で洗って、何もない状態になっている。

 ベトナムの牛肉はまだ美味しくないそうだが、豚肉はこのようにとっても活きが良い。
 そして、私はそれから数日後、とうとう見てしまった。断頭台に引っ張られて行って、首を裂かれる哀れなブタさんを。足が痙攣したと思うと、ドッと横に倒れて、血を吹き出す。それからのてきぱきした処理には驚いた。まず、ブタの体表の毛を剃って、すぐさま解体。そして肉がばらばらになり、平たいかごに載るまでに、45分しかかからない。私が時計で測っていたから間違いない。内臓は大きな鍋に入れられて、骨も別の鍋。極めて簡単だった。

 とにかくベトナム人の良く働くこと。驚くべき勤勉さだ。一家総出で、何でもやる。そして、早朝から、その農家の小さな子供たちは、外で朝の体操をしている。家庭の中に、団結と規律がある。立派なものだ。

 ひどい雨が降ると、ブタの屠殺はない。雨では売りにも出かけられないからだと思う。雨はブタさんにとって恵みの雨だ。しとしと雨ていどなら、処刑は実行される。2日間ほどは、昼間にもブタさんが屠殺された。"だぶるブタ"だ。

 それからもう一つ。夜の11時には、犬が鳴くことにも気が付いた。このホテルの反対側はハノイで有名な犬肉料理の専門店が並んでいる。だから、犬も...。

 かわいそうじゃないか。私は戌年の生まれでもあり、犬の悲壮な声は、身に染みてしまった。私の夢の中で、2度もブタさんと犬さんが、踊っているのをみた。そして、私はベトナム語の先生に、ベトナムのブタさんと犬さんがベトナム語で理解できるように、念仏を教えてもらった。

 ベトナム語での念仏は、ナ・ム・ア・ジ・ダ・ファットである。


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