日本を飛び出す男達 タイブログ
「僕、タイに行くことにしたんです。
仕事もやめました」
その男性は30代半ばだろうか。
タイ料理屋の顔見知りでたまに会話を
交わすくらいで名前は知らない。
タイに行ってどうするのかと尋ねたところ、
タイが好きだからタイに行って、3年ぐらい
タイ語を勉強して暮らすらしい。
仕事も決めてない。
でも、もうタイに行く日にちが決定している。
俗に言う「沈没」だ。
タイが好きになりタイへ行く。
最初は手持ちの金で暮らすことが出来るが、
徐々に金がなくなり、働こうにも働き口がない。
働いても日本に帰る旅費を稼ぐのはタイの
賃金では相当厳しく、タイを脱出しようにも
脱出できずに沈んで行く。
沈んだら二度と浮上できない。
沈没は相変らず、よく耳にする話だ。
無計画でタイに行ったら必ず沈む。
他にも、タイで事業に失敗して沈没する人もいる。
今年、タイ人に教えてもらった沈没情報は、
60歳代の社長でタイで事業を展開して最初は
好調だったものの、トラブルがあり一気に会社が
傾いてしまった。金が飛ぶように消えていく。
ところがタイ人からの尊敬のまなざしや期待を
裏切れなかったのか、あらゆる店でタイ人におごり、
散財を続けてしまったことで最終的には一文無しになった。
困り果てたこの社長はパスポートを闇ルートで
売ってしまう。完全に沈没だ。
タイ人によるとこの男性はバンコクの中を
ダンボール片手に彷徨い、タイ人からわずかな
お恵みをもらいながら、明日が来るのか
解らない様な生活をしているらしい。
今年の6月に聞いた話だから
今は何をしているのやら。
他には金がなくてタイ人にトイレ掃除で
使ってもらう人や、繁華街のポン引きで
使ってもらう人など、バンコクには
沈没して浮上できない日本人が意外と多い。
タイは観光客には優しい国だが、現地で
住むとなると途端に厳しい世界が見えてくる。
僕もタイフリークの一人として、魅力いっぱいのタイ王国に
沈没してしまう気持ちは痛いほど解る。
しかし、幸い反面教師の話をたくさん知っているから、
沈没せずに済んでいる。
欲望や煩悩のままに行動すると必ず痛い目にあう。
微笑みの国で、微笑みのない生活などしたくはない。
タイで沈没したら誰も助けてくれない。
キャッシュが重要なタイでは、金のない日本人など
道端の邪魔なパイロンぐらいにしか思われない。
しかし理性がぶっ飛んでしまうくらいの居心地の良さが
タイにはある。これはタイに行った人でないと解らない。
「いやーもうほんと楽しみですよ。
じゃ、そろそろ行きますよ!
タイで会うことがあったらよろしくです!」
満面の笑みを浮かべてその男は店を後にした。
彼はいつまでその笑みを浮かべていられるのだろうか。
「また沈没か」
僕はそう思いながら店内を緩やかに流れる田舎の
タイソングを聞きながら、シンハービールの瓶を
グラスに傾けた。
今日がマイペンライでも明日がマイペンライとは
限らないのがタイランドだ。
遊びたければ遊ぶし、金が無ければ働いてみるし
寝たければ寝る。この犬のように、世間など気にせず寝る。
気分は気分で変わるのがタイ人でありタイランドである。
日本人が今日の気分など気にしていられないくらい
忙しくて仕事に集中できることは幸せなのかもしれない。
余計なことを考えない(考えられない)ことも処世術なのかもしれない。
さて、沈没しないように、今日もマイペンライでお金を稼ごう。