SAP Helps 南アフリカ Run Better ~(3)アウェトゥ・プロジェクト
今回、私を含めた3人のSAPチームの派遣先であるアウェトゥ・プロジェクト(http://awethuproject.co.za/)は、共同創業者CEOであるユスフ・ランダーリースが2009年に立ち上げた、起業家支援(インキュベーター)企業だ。
■アウェトゥ・プロジェクト
ユスフ・ランダーリースはヨハネスブルグ生まれで、大学はハーバード、そのあとローズ奨学金を得てオックスフォードでマスターを2つ(金融経済学とアフリカ学)取り、クレディ・スイスでも働いていたことがある、という英才。その後ヨハネスブルグに戻り、アウェトゥ・プロジェクトを立ち上げた。
アウェトゥはすでにツツ大主教(1984年にノーベル平和賞)をパトロンとして獲得、2011年度のEchoing Green Fellowにも選ばれるなど、めざましい活躍をしている。
アウェトゥの基本コンセプトは、「能力があり真面目に努力する人であれば、お金がなくても起業家(アントレプレナー)になれる」というものだ。
すでにやりたいビジネスのアイデアを持っている人はもちろん、やる気はあるけど特にアイデアがない人、でもOK。一方すでに自分でビジネスを持っている人に対しては、それをさらに大きく伸ばすための支援もする。
・・・最初にこの話を聞いたときは、???と思った。やりたいビジネスがとくにない人でも起業できる???
ふつう「起業家」とか「アントレプレナー」というと、いわゆる起業家精神にあふれたバリバリの人を思い浮かべがちだ。たいてい若く、聡明で、すでにやりたいビジネスのコンセプトがしっかりとあり、それをベンチャー投資家の前で見事にプレゼンできて、出資を勝ち取り...みたいなイメージ。(たぶんこれは日本だけでなくアメリカでも同じ。)
一方、アウェトゥが現在支援しているアントレプレナーたちはというと、ビジネスプランはなくてもOKだし、年齢層は18歳から65歳以上まで、ほぼ偏りなく分布しているという。???
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このアウェトゥの非常にユニークなコンセプトの背景には、南アフリカ共和国、さらにはヨハネスブルグ特有の事情がある。
ご存じのように、アパルトヘイトが廃止されてからほぼ20年経ち、その間の経済発展によって南アフリカはBRICSの一角を占めるまでになった。金、ダイヤモンド、ウランといった鉱物資源を足掛かりに発展してきたが、現在ではサブサハラ地区全体の金融・経済の中心地となっている。GDPに占める第三次産業の割合は79%にのぼり、人口ひとり当たりGDPは約7,500ドル。複数政党が機能する民主主義がほぼ定着し、2010年のサッカーワールドカップを無事に開催したこともあって、名実ともに「アフリカのリーダー国家」という評価が定着しつつある。(念のため付け加えると、役人の腐敗はひどいと、南アフリカの人たちは口を揃えて言う。ただしアフリカの他の国よりはましだ、とも。)
しかし一方で、失業率は政府発表で約25%。統計の取り方によっては40%を超えるとも言われている。若年層はさらに失業率が高い。(注:「若年層」ということは、つまりアパルトヘイト時代の苦労を直接知らない世代ということでもあり、その労働観(Work ethics)については、それより上のアパルトヘイトを知る世代との分断が深刻になっているという話も聞いた。)
要は、働きたくても働き口がなく、結果ブラブラしているだけの人口が4~5割もいるということなのだ。
こうした人たちに、仕事を作るにはどうしたらよいか?その一つの道が、「自営業を始めること」つまり「起業」だ、ということなのだ。これまでビジネス経験がない人たちに、ビジネスの基礎の基礎を教え、コーチングを続けて、自営業者をひとりでも増やせば、それが失業者を減らすことにつながっていく。そしてそのビジネスが軌道に乗り、従業員を雇うようになれば、さらに雇用が増えていく、と。
したがって、アウェトゥが対象としている「起業」の事業の内容は、どちらかというとローテクな、失礼な表現を承知でいうと「誰でもできそうな」ものが多い。たとえばテイクアウェイ専門のファストフード店(自宅のキッチンで開業できる)とか、洗車屋(自宅の前の空き地で開業できる)とか。しかし「誰でもできそうな」ものだからこそ、「失業者」が「起業家」になれるのだ。
アウェトゥについては、この後も繰り返し触れることになると思うので、また追って。
■オフィスは眺めのよい、元刑務所
アウェトゥ・プロジェクトのオフィスは、実に興味深いところにある。コンスティテューション・ヒル Constitution Hill といい、それ自体がヨハネスブルグの観光名所のひとつにもなっている歴史ある建物なのだが、実はなんと元は刑務所で、ネルソン・マンデラやガンジーも収監されていたことがあるという。
当然、アパルトヘイトによって弾圧されていた受刑者の悲惨な歴史があり、幽霊が出るとか出ないとか。(日本人以外も、そうしたユーレイ話を怖がるのだ、ということも今回初めて知った(笑))
左手奥、村田のちょうど真後ろくらいに見える白い建物が、ネルソン・マンデラやガンジーも収容されていたことがあるという収容棟。
ただし、このコンスティチューション・ヒル自体が、ヒルブロウ Hillbrow という「危険度がきわめて高い地域」にあるので、オフィスからそうそう出歩けない。宿のあるサントンからヨハネスブルグ(パーク)駅までは快適な高速鉄道ハウトレインで通うのだが、そこからオフィスまでは必ず車で送り迎えしてもらっている。歩いても5分ほどの距離なのだが、アウェトゥのメンバーも「面倒だから歩いて」とは決して言わないところをみると、やはりそれなりに(外国人がうろつくには)危険地域なのだろう。
さらに歴史を遡ると、刑務所になる前はイギリス軍の侵攻に備えたボーア人の要塞だったとのことで、ヨハネスブルグ一帯を見渡せるもっとも見晴しのよい場所にある。下右の写真のように、3階とは思えない眺めのよさだ。
眺望は一等地でも、社内はいかにもスタートアップ企業らしく、徹底的にチープだ。机はすべて、パレット(フォークリフトで荷物の上げ下ろしをするための粗い木組み)をねじ止めして作った手作り品。役員会議室の机も同じだ。
壁には3人の巨大な肖像画が飾られているが、真ん中はこの人。
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