裴英洙さんの「トリアージ仕事術」を読みました。
»
お医者さんでもあり、慶應ビジネススクールを主席で卒業し、今は医療コンサルタントをされている裴英洙(はい えいしゅ)さん。ビジネススクールの同級生でした。
病理医をされていた時は年1万件もの最終診断を下していたそう。
診断の対象となるのは、「重要で緊急な案件で失敗は許されないもの」ばかり、しかも同時多発的に飛び込んでくる。そういった医療の場では、優先順位を瞬時につけてタスクをこなしていくことをひたすらトレーニングするのだそうです。その優先順位の付け方・意思決定の仕方をビジネスの場面でも応用できるのではないか?という発想から生まれた本「トリアージ仕事術」。昨日は、出版記念講演があったのです。久しぶりの校舎。
裴さんの思い出話を一つ。
慶應のビジネススクールの授業はケーススタディというディスカッション形式で行われます。生徒の発言の中で、いくつか忘れられない名言が生まれるのですが、裴さんの発言の中で私が好きだったエピソードがあります。
その日のケースは、東南アジアの上水と下水がわかれていない貧しい村に、水を浄水する機械を寄付した日本人の話でした。その人は、その貧しい村の現状をみて心を痛めて、何か助けになればという思いで、寄附したそうです。きれいな水は、子供の飲用水として使ったり、病人の体をふくために使ったり、村の人は大層喜びました。ところが、なんと、ある日その村の村長さんがその浄水器を盗んで逃げてしまうのです。
そこで、どうすればよかったのか?今後はどうしたらいいのか?がディスカッションのテーマでした。
人の善意を裏切るような話だったので、当然怒りの発言が多く、
「先にモノをあげてはダメ。モノをあげる前にまずは教育をすべきだった。」
「セキュリティにお金をかけるべき。途上国に工場を持つ場合、何より一番お金がかかるのはセキュリティだと聞いた」
「機械を移動できないよう、固定できなかったのだろうか?」
「衣食足りて、礼節を知るとは、まさにこのことだね」
などなど。
一通りの発言が出て、煮詰まったところで、裴さんが発言します。
「性善説に立ってみてはどうでしょう?
実は、隣の村の方がずっと貧しくて、その村に浄水器を渡すために村長さんは盗んだとか。」
ウィットのきいた温かい発言に、みんな大笑いしたのを覚えています。
「トリアージ仕事術」にもそんな裴さんの知的さ&温かさが根底に流れているのが感じられます。
「神の手」なんて言うくらいだから、一般の人にはほとんど見えない医療の現場。裴さんいわく、意思決定の仕方やマルチタスクのこなし方は、ビジネスの場面に応用できるものが沢山あるのだそう。
どれだけ広がりがあるか、楽しみですね。
「トリアージ仕事術」
SpecialPR