さらに「拡張」する拡張現実 -- #ARE2011 2日目メモ
Augment Reality Event 2011、数時間前に2日目も無事終了しました。ラップアップ・セッションにはARを使ったマジックでお馴染みのマルコ・テンペスト氏(上の写真)も登場。会場から拍手喝采を浴びていました。彼のAR手品を見たことがないよ、という方はこちらをどうぞ:
それでは昨日と同様、個人的に気になった部分をメモ的にまとめておきたいと思います。
【タブレットがAR端末のスタンダードに?】
TechCrunch日本版でも取り上げられたことで、独Metaio社の「タブレットAR」イメージ映像が日本でも話題になっているようです:
■ Metaioが提案するタブレット版拡張現実 (TechCrunch Japan)
こちらですね。ARの内容自体は以前からあったものですが(これらが既に実現されているというだけでも凄いことだけど)、タブレット端末の上で動かすことで、新たな価値を実現していることが分かります。恐らくタブレット端末は、ここ数年のARにとって無視できない存在となることでしょう。
……などとドヤ顔で予測しなくても、ARE2011の個別セッションの中では、iPadを使ってARのデモを行うという方々が少なくありませんでした。もちろんiPad専用に開発されたものは少なく、以前からあったアプリをiPadで動かしているというものが多かったのですが、iPadが普通にAR端末として使われるという状況が既に到来しているわけですね。
【要素技術のさらなる進化】
1つ1つ取り上げていると本が書けてしまうので控えますが、マスメディアから熱狂的に取り上げられることはないものの、要素技術の進化も地道に続けられていることが示されていた今回のARE。個人的には、マイクロソフトの"Read/Write World"が最も印象に残りました:
Swimming through the Read/Write World from Read/Write World on Vimeo.
フォトシンス(Photosynth)などなど、マイクロソフトが研究中の先端技術を組み合わせたデモンストレーションなのですが、とにかく画像認識/処理の技術がここまで具体的な形として実現しつつあることに驚かされます。またこうした技術が登場してきた結果、これまでのGPSやマーカーを使った(比較的)精度の低いARを"Weak AR"(弱いAR)、最先端の技術を用いた高精度ARを"Strong AR"(強いAR)などと呼ぶ人々も現れており、AR製品/サービスがよりハイレベルなものになることを予感させられました。
とそんなことを言っていたら、日本でもこんな動きが:
■ 統合型 拡張現実感 技術 “SmartAR(スマートAR)”を開発~マーカーレス方式対応で、高速認識・追従、ダイナミックな3D空間認識・表示を実現~
ソニーが新たなマーカーレスAR技術を開発したとのこと。ストロングARならぬ「スマートAR」、具体的なサービスとして実現される日が楽しみです。
【改めて「拡張現実とは何か?」】
拡張現実って何だろう?これは拡張現実を語る際に常に繰り返されてきたテーマかもしれませんが、昨年よりもこの問いを口にする人が多かったように感じます。それは具体的なサービスが増加・浸透する中で、初めてこの技術に接する人にどう説明するか?という問いが改めてクローズアップされてきたという側面もあると思いますが、技術的にはある程度のものが容易に実現できるようになったいま、拡張現実の新たな使い道を模索し、さらなる発展を遂げるために再び根本を問い直してみる必要があるのではないか?という認識が生まれているようにも感じました。
理由はともあれ、こちらも1つ1つの議論を紹介しているときりがないので、1つのスライドをご紹介しておきましょう。非視覚型ARとして、あるいはソーシャルメディアの1つの進化形として、今回のAREで個人的に最も気になったサービスが"Geoloqi"なのですが、そのGeoloqiの中の人(Amber Caseさん)が行われた、「非視覚的インターフェスとしての位置情報」(意訳)というプレゼンで使用されたスライドです:
Geoloqiは個別の機能を実現するサービスというよりも、位置情報系サービスを実現するためのプラットフォームとして進化しつつあるサービスですが、現時点では主に
- 事前に任意の場所にテキストメモを設定することができ、ユーザーがその場所に来ると設定されていたテキストがプッシュされる。(スーパーに来たら「電池を買うの忘れないで!」と通知させるなどの使い道)
- 一定時間の間、あるいは設定された範囲内で、自分の位置情報を公開する。(友人と待ち合わせをする時の間だけ自分の居場所を知ってもらえるようにするなどの使い道)
という2つの機能があります。ってこれ、ARじゃなくてLBS(Location Based Service、ジオメディアのこと)でしょ?と言われてしまうかもしれませんが、「ある場所においてそこに紐付けられた情報をユーザーに提示する」という点ではARの範疇に入れることができるでしょう。メガネ型HMDを装着しておき、スーパーに入ったら「乾電池を買うこと」というメモが目の前に現れるというアプリケーションの方がよりAR的かもしれませんが、そもそもARとは何か?という議論を突き詰めて行くことで、こうした方向での進化の可能性も出てくると思います。
Geoloqiについてはソーシャルメディアから見た場合にも非常に面白い問題提起をしているのですが、それはまた別の機会に。
【ブルース・スターリングの言葉】
マルコのARマジックも終わり、いよいよARE2011の締めのお言葉。ブルース・スターリング氏とヴァーナー・ヴィンジ氏(彼の登場がアナウンスされていたためか、著作『レインボーズ・エンド』に言及する登壇者が少なくありませんでした)が大広間の壇上に上がり、総括をされたのですが、スターリング氏がこんなことを語っていました:
今年は頓智ドットの人々がいなくて寂しい。彼らは本物のギークだ。SXSWの時、震災に負けず行動した姿も素晴らしかった。
昨日も『電脳コイル』など日本のアニメに言及する人が多かったことをご紹介しましたが、こういう形で日本の企業が話題に上がることに嬉しさを感じずにはいられませんでした。日本企業よ奮起を!などというアジを行うつもりはありませんし、日本は東日本大震災という未曾有の災害に直面している以上、外に目を向けている暇はないということも理解しています。しかしこういった形で日本に期待する声や、また「日本はきっと震災による被害から立ち直ってくるだろう」と応援する声を何度も聞いたことを、最後にご紹介しておきたいと思います。
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